立樹に告白してから半年後、立樹は結婚した。
本当はとても辛かったけど、立樹にお願いされたこともあり結婚式に出席した。
サテンシルバーのフロックコートを着た立樹はいつもよりも数十倍格好良くて惚れ直した。
だけど、
「新郎立樹。あなたはここにいる唯奈を病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も妻として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?」
そう言う牧師の言葉に、立樹が「はい」と言ったとき俺は泣いた。
牧師の前で、いや、神の前で永遠の愛を誓ったのだ。
そして、唯奈さんという奥さんのものになったんだ。
どこまでいったって立樹が俺のものになることがないのはわかっていたけれど、妻帯者となると話しはまた違ってくる。
「ほら、もっと呑めよ」
「呑んでるよ」
そう言って大翔はビールを追加注文していた。
立樹の結婚式の翌週。
俺は高校時代からの友人である大翔と居酒屋で呑んでいた。
大翔は高校時代から俺がゲイであることを知っていて、それでも全然態度が変わらないので社会人になってもこうやってたまに呑んだりしている。
そして今日は、好きな人が先週結婚したから慰めろと言って久しぶりに会って呑んでいた。
「でも、写真見せて貰ったけどほんとイケメンだよな。悠が惚れても仕方ないよな」
「だろ。あきママのところに連れて行ったとき、そのときいたネコの視線集めてたもん」
「そうだろうな。みんなの視線集めるよな、あれだけイケメンだと。その結婚した彼女も他の女に取られたくなくて必死だったんじゃないか?」
「そうなのかな?」
「だって考えてみろよ。悠の彼氏だとしたらどう?」
「あー、そうだね。確かに取られたくなくて結婚できるならしちゃうかも」
「付き合って2年だろ。特に早いとは言わないけど、彼女若いし焦ってた感あるんじゃん?」
「そう思う?」
大翔は付き合って4年目の彼女がいる。
立樹と2歳の年の差はあるけど、付き合っている彼女がいる大翔がそう感じるというのだから、立樹もまだ早いと思ったのかもしれない。
「確かに俺らより年上だけど2歳だけだろ。それで付き合って2年で結婚せっついてんだぞ」
「結婚決める前に相談はされた」
「だろうな。よく決めたよな。まぁ相手の子にとっては嬉しいだろうけどさ。最高に格好いい彼氏を旦那さんにできたんだからさ」
そうだよな。散々せっついてやっと結婚できたんだもんな。
でも、それで立樹は家庭というものに縛られることになったんだ。
今まで自由に使えていた時間だって自由にはいかなくなる。現にメッセージだって減った。
家でしていると浮気してるのかって言われるって言ってたな。
相手は俺なのに。
「俺も2年後には結婚してるのかな?」
「どうだろ。大翔、結婚願望あったっけ?」
「んー。結婚願望というより子供が欲しい」
子供……。
今は結婚しただけでショックを受けてるけど、数年後には子供がいたりする可能性があるんだと初めて気づいた。
「なに落ち込んでんだよ」
「結婚したら子供がいつ出来たっておかしくないんだって気づいてさ」
「女が男を縛るのに一番効果的なのが子供だと思うんだよな。だから、その彼女だって早くに子供作るようにするかもしれないぞ」
大翔に言われて余計にショックを受ける。
「お前さ、俺を余計に落ち込ませたいの? 慰める気ないだろ」
「なかったら来ないよ。ただ、現実を知っておいた方がいいだろ」
確かに一理ある。
子供のいる立樹……。
想像がつかない。
でも、それが数年後の立樹の姿なんだと思ったら涙が出てきた。
「泣くな、泣くな。ショックかもしれないけどあらかじめ気持ちの準備が出来てた方が、いざというときのショックは少なくて済むだろ」
「だけど、結婚したばかりでそれでさえショック受けてるのに」
「ごめんごめん。悪かったって。だからほら、ビールおかわりしようぜ」
「うん」
そう言ってビールを再び注文した。
そこでふと思う。
今日は金曜日だ。
今までなら立樹と呑んでいた日だ。
特に決めなくても、当たり前のように金曜日は立樹といた。
でも、これからはこうやって他の友だちと過ごしたり、1人で過ごしたりするんだろう。
そしてそれが日常となるんだ。
そういう俺の日常と、奥さんと子供がいることが日常となる立樹。
ノンケだからいつか結婚するのはわかっていた。
でも、子供ができることまでは考えていなかった。
立樹が結婚しても好きでいるのは自由だと思ってた。でも、やめよう。俺は俺の道を歩もう。
「俺、彼氏作る」
「その方がいいよ。子供できたら完全に自由な時間なくなって会えなくなるからな」
「だよな」
今までは立樹がいたから出会いも求めてなかったけど、これからは出会い求めていこう。
もう、立樹からは卒業しなきゃな。
「いつも行ってる店でも出会いあるだろ」
「うん。たまに声かけられる」
「だろうな。だったらさ、いい人いたら誘いに乗ってみろよ」
「そうだね」
俺が彼氏できたら紹介しろって立樹言ってたな。
紹介したらなんて思うかな?
いや、そんなこと考える必要ないか。
立樹が立樹の道を歩んだように俺は俺の道を歩むだけだ。
そうしたらいつか立樹を好きだったことを過去のこととして話せるときが来るだろう。
いや、来なきゃいけない。
「彼氏できたら俺にも紹介しろよ。ジャッジしてやるから」
「立樹にも同じこと言われた」
「2人のジャッジ受ける未来の彼氏大変だな」
「そうだな」
うん。2人に紹介できるようにいい人探そう。
そう思ってビールを一気呑みした。
金曜の夜。
仕事終わりにあきママの店に顔を出す。
出会系アプリなんかもあるけど、ネットで出会うというのはなんだか怖いから古典的だけどナンパがいいかなと思ったからだ。
「やっと出会い求める気になったのね」
「うん。立樹から卒業しなきゃなって思って」
「そうね。ノンケってだけでも実らないのに、結婚までしちゃったらもう終わりじゃない」
「うん。友だちにも言われた。数年後に子供がいてもおかしくないんだって思ったらさ、もう無理じゃん。想像するだけで嫌だよ」
「子供のいる男のことなんて愛せる?」
「わかんないけど無理かな。だからさ、いい人いたら紹介してよ」
「紹介する前にあんたなら声かけられるからいいでしょ」
「俺、そんなにモテないよ」
あきママに他の人を探すと言ったら賛成された。
そうだよな。俺がママの立場でもそうする。
ただひとつ、俺がモテると思ってるのが困る。紹介して欲しかったのに。
立樹もあきママも誤解してる。俺のどこをどう見たらモテるって思えるんだ?
「ひとつ言っておくけど、私と話してばかりいると声かけられる率低くなるわよ」
「えー。そしたら誰と話すの」
「大人なんだし1人で呑みなさい」
「1人でしっぽりとお酒呑むような歳じゃないし、キャラでもないよ」
「そうね。それはそうだわ」
「うん。だから紹介してね。変な人はやめてよ」
「まったく。注文ばかりして。注文するなら酒のおかわり注文してよ」
「するする。えっと……なににしようかな」
「私が決めてあげる」
「俺が呑めるのにしてね。ウイスキーとか苦手だよ」
「ジンなら大丈夫でしょ」
「うん」
そう言って出てきたのは紫色をした綺麗なカクテルだった。
「ブルームーンよ。ジンにバイオレットリキュールとレモンジュースを混ぜてあるの。カクテル言葉は叶わぬ恋と奇跡の予感、よ。今のあんたにぴったりでしょ」
カクテル言葉って聞いたことはあるけど、なにがどんな言葉なのか全然知らなかった。
奇跡の予感はわからないけど、叶わぬ恋というのは確かに今の俺にぴったりだ。
結婚したノンケの男を思ってるって不毛だもんな。
そう思いながらグラスに口をつける。
「あ、美味しい」
「でしょう。いい恋が来るわよ」
「そうだといいなー」
今度はきちんとゲイの男を好きになろう。
この店、この街で出会えば間違いなく相手はゲイだ。
実際に立樹と出会う前に付き合った彼氏はここで出会っている。
立樹だけだ。ノンケの男は。
その立樹とはこの街じゃない普通の店で出会ってる。
だから、ここで出会えばいいんだ。
そう思うと少し気が楽になる。
「いい出会いが来ると思ってれば来るわよ。信じてなさい」
「ママが紹介してくれたら大丈夫じゃん?」
「人を当てにしないの。自分で探しなさい」
「だからー。俺、そんなにモテるとは思わないけど」
「でも、ここで声かけられたりってあるでしょう」
「まぁ、あるけどさー」
「神様がいい出会いを授けてくれるわよ」
「神様かー」
「そしたらあの彼以上の素敵な人が声をかけてくれるのよ」
あ、夢見る夢子さんモード入った。
あきママは夢見る夢子さんだったりして、ちょっと笑っちゃうけど可愛いところがある。
きっとママの今の頭の中にはハーレクインのような出会いをしている場面があるんだろう。
そんなママを見ていると、隣から声をかけられた。
「1人なら一緒に呑みませんか?」
声をかけてきたのは、スーツを着た真面目そうな男だった。

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