立樹に告白してから半年後、立樹は結婚した。
本当はとても辛かったけど、立樹にお願いされたこともあり結婚式に出席した。
サテンシルバーのフロックコートを着た立樹はいつもよりも数十倍格好良くて惚れ直した。
だけど、
そう言う牧師の言葉に、立樹が「はい」と言ったとき俺は泣いた。
牧師の前で、いや、神の前で永遠の愛を誓ったのだ。
そして、唯奈さんという奥さんのものになったんだ。
どこまでいったって立樹が俺のものになることがないのはわかっていたけれど、妻帯者となると話しはまた違ってくる。
そう言って大翔はビールを追加注文していた。
立樹の結婚式の翌週。
俺は高校時代からの友人である大翔と居酒屋で呑んでいた。
大翔は高校時代から俺がゲイであることを知っていて、それでも全然態度が変わらないので社会人になってもこうやってたまに呑んだりしている。
そして今日は、好きな人が先週結婚したから慰めろと言って久しぶりに会って呑んでいた。
大翔は付き合って4年目の彼女がいる。
立樹と2歳の年の差はあるけど、付き合っている彼女がいる大翔がそう感じるというのだから、立樹もまだ早いと思ったのかもしれない。
そうだよな。散々せっついてやっと結婚できたんだもんな。
でも、それで立樹は家庭というものに縛られることになったんだ。
今まで自由に使えていた時間だって自由にはいかなくなる。現にメッセージだって減った。
家でしていると浮気してるのかって言われるって言ってたな。
相手は俺なのに。
子供……。
今は結婚しただけでショックを受けてるけど、数年後には子供がいたりする可能性があるんだと初めて気づいた。
大翔に言われて余計にショックを受ける。
確かに一理ある。
子供のいる立樹……。
想像がつかない。
でも、それが数年後の立樹の姿なんだと思ったら涙が出てきた。
そう言ってビールを再び注文した。
そこでふと思う。
今日は金曜日だ。
今までなら立樹と呑んでいた日だ。
特に決めなくても、当たり前のように金曜日は立樹といた。
でも、これからはこうやって他の友だちと過ごしたり、1人で過ごしたりするんだろう。
そしてそれが日常となるんだ。
そういう俺の日常と、奥さんと子供がいることが日常となる立樹。
ノンケだからいつか結婚するのはわかっていた。
でも、子供ができることまでは考えていなかった。
立樹が結婚しても好きでいるのは自由だと思ってた。でも、やめよう。俺は俺の道を歩もう。
今までは立樹がいたから出会いも求めてなかったけど、これからは出会い求めていこう。
もう、立樹からは卒業しなきゃな。
俺が彼氏できたら紹介しろって立樹言ってたな。
紹介したらなんて思うかな?
いや、そんなこと考える必要ないか。
立樹が立樹の道を歩んだように俺は俺の道を歩むだけだ。
そうしたらいつか立樹を好きだったことを過去のこととして話せるときが来るだろう。
いや、来なきゃいけない。
うん。2人に紹介できるようにいい人探そう。
そう思ってビールを一気呑みした。
金曜の夜。
仕事終わりにあきママの店に顔を出す。
出会系アプリなんかもあるけど、ネットで出会うというのはなんだか怖いから古典的だけどナンパがいいかなと思ったからだ。
あきママに他の人を探すと言ったら賛成された。
そうだよな。俺がママの立場でもそうする。
ただひとつ、俺がモテると思ってるのが困る。紹介して欲しかったのに。
立樹もあきママも誤解してる。俺のどこをどう見たらモテるって思えるんだ?
そう言って出てきたのは紫色をした綺麗なカクテルだった。
カクテル言葉って聞いたことはあるけど、なにがどんな言葉なのか全然知らなかった。
奇跡の予感はわからないけど、叶わぬ恋というのは確かに今の俺にぴったりだ。
結婚したノンケの男を思ってるって不毛だもんな。
そう思いながらグラスに口をつける。
今度はきちんとゲイの男を好きになろう。
この店、この街で出会えば間違いなく相手はゲイだ。
実際に立樹と出会う前に付き合った彼氏はここで出会っている。
立樹だけだ。ノンケの男は。
その立樹とはこの街じゃない普通の店で出会ってる。
だから、ここで出会えばいいんだ。
そう思うと少し気が楽になる。
あ、夢見る夢子さんモード入った。
あきママは夢見る夢子さんだったりして、ちょっと笑っちゃうけど可愛いところがある。
きっとママの今の頭の中にはハーレクインのような出会いをしている場面があるんだろう。
そんなママを見ていると、隣から声をかけられた。
声をかけてきたのは、スーツを着た真面目そうな男だった。