EHEU ANELA

遠回りのしあわせ〜You're my only

番外編4

「美味しい! 宮崎牛のローストビーフを朝から食べられるなんて贅沢だよね。ホテルの朝のビュッフェってこんなに贅沢なのかなぁ? これもやっぱりクラブラウンジだからなんだろうな」
「どうなんだろうな。宮崎牛は別としても普通のビュッフェよりは贅沢なんじゃないか?」
「だよね。でなかったら分ける必要ないし。ん〜朝から美味しいものが食べられるってしあわせ〜」
「お昼はイタリアンでいい? ホテルでランチやってるの中華かイタリアンなんだよね。他はカフェになっちゃうんだ」
「イタリアンでいいよ。パスタ食べたい」
「了解。じゃあ乗馬終わったらお昼にしよう」
「うん!」

朝食を食べながらそんなことを話す。


今日は乗馬をしてからワイナリーへ行く予定だ。体験乗馬は15分。自分を手綱を握れるらしい。乗馬経験者なら1時間のコースがあるけれど、俺も立樹も初めてなので15分コースしかない。


「午後はワイナリー行ってから神社でしょ?」
「そう。神社はパワースポットらしいよ。良縁を願う人が多く来るって書いてあった」
「良縁は必要ないかな。もう立樹いるし。パートナーシップ宣誓もして5年になるし」
「でも、それとは別に木のコブに触れると強運を得られるらしいから、そっちはいいんじゃない?」
「そうだね。強運は欲しいかな」
「うん。だから行こう」

乗馬と付近のワイナリーのみの今日はゆったりと過ごせる。あ、でも夕方には月を見ないと。月の道っていうのを見てみたいから。それでも余裕のある日だった。乗馬と付近のワイナリーのみの今日はゆったりと過ごせる。あ、でも夕方には月を見ないと。月の道っていうのを見てみたいから。それでも余裕のある日だった。


「ワイナリー行く前にお茶したい。2階のラウンジに行ってみたい。コーヒーにこだわってるみたいだから」
「いいよ。時間あるから。月の道はどこで見る? ここでもいいし部屋でもいいし」
「んー。部屋でゆっくりと見たい」
「了解。じゃあそうしよう」

1日の予定が決まっていく。明日は東京に戻らないといけないから今日は無理せず。だけど楽しむことは楽しむ。そうだな。明日には帰るんだよな。夜は温泉入りに行かなきゃ。


「立樹。夜は温泉ね」
「そうだな。昨日は貸し切りだったから今日は普通の大浴場で。露天風呂もあるよ」
「うわ〜。温泉楽しめるね」
「それで夕食は鍋料理、中華、お寿司、割烹のどれがいい?」
「そしたら割烹! 中華もお寿司もいつでも食べれるし、鍋にはまだ少し早いし。でも、懐石はこんなときじゃないと食べれないから」
「じゃあそうしよう」

中華も好きだけど、中華はいつでも食べられる。宮崎牛はしっかり味わったから、海のあるところだから新鮮な魚介を楽しみたい。でも、お寿司だったら東京でも美味しいところはある。もちろん割烹だってあるんだけど、普段は行かないから。

でも、そんなちょっと非日常を過ごせるところを見つけた立樹はすごい。

部屋もスイートだから広くて綺麗だし、温泉だって貸切露天風呂がある。観光だってしようと思えばある。そして夏なら海もプールもある。一年中楽しめるところだ。

とりあえず今日は乗馬とワイナリーを楽しもう。

朝食を終え、部屋で少し休んでから予約してある乗馬クラブへと行く。

当たり前だけど乗馬クラブには馬が何頭もいてちょっとびっくりする。だって馬なんて間近で見ることないから、これが初めてだ。馬って大きいし、目は可愛いんだなぁと馬鹿な感想を思ったりもする。

ヘルメット、ベスト、ブーツを借り、身につける。指導員が常に傍にいるけど落ちて怪我したりしないようにベストとヘルメットが必要なようだ。馬が歩いているときや暴走してしまったときに怪我をしない為だろう。

馬を馬場に連れだして乗るだけでもうドキドキだった。そして指導員さんに傍にいて貰い、馬場をくるりと回る。


「うわーっ」
「大丈夫ですよ。ゆっくり歩いてくれますから」

馬が歩き出したことにびっくりしてわめいてしまうと指導員さんに声をかけられる。

ポックリポックリと馬は4拍子でゆっくりと歩いてくれるけれど意外と体が上下に動くし、馬の上できちんとした姿勢を保つことが意外と大変だ。

馬を蹴って進ませて、手綱を引いて止める。馬を蹴るのはそれなりに力を入れないと馬は気づかないというが、強すぎたらどうしようと思ってなかなかできない。一体何回蹴っただろうか。

やっと力加減が分かった頃に体験は終わってしまった。15分はあっという間だよな。

馬から降りて歩くのがなんだかがに股になってしまいそうで変な感じがする。明日筋肉痛になったりしないだろうか。でも、楽しい15分間だった。


「楽しかったね」
「そうだな。もう少し乗ってたかったよな」
「でも、姿勢保つのが大変で筋肉痛になりそうだよ」
「明日どうなるかだな」
「帰るだけでよかったよ」

乗馬を終えた俺たちはホテルの地下1階にあるコンビニで飲み物だけを買い、部屋へと直行した。たった15分の体験乗馬だったけれど、何気に疲れたからだ。


「ワイナリーは午後ね。少し休みたい。せっかくのいい部屋だし、部屋でもゆっくりしないとね」
「確かにな」

部屋に入るとベッドにダイブする。座り心地のいいソファーがあるけれど、疲れた場合はベッドがいい。寝室のブラインドをあげればベッドからでも海が見える。

俺はベッドの真ん中に大の字で寝転がる。


「お疲れだな」
「何気に疲れた。立樹は大丈夫なの?」
「疲れたけど、寝転がるほどじゃないかな」
「なんか負けた気分……。でもワイナリーと神社は行くから!」
「あぁ、強運を得たいんだろ」
「そりゃそうだよ。立樹だってそうだろ」
「悠をゲットできただけで十分強運だと思ってるけどな」

そう言って立樹は柔らかく微笑み、俺の頭を撫でてくる。その顔は反則だよ、立樹くん! こんな立樹の表情は何度となく見ているけれど、それでも見るたびに恥ずかしくなってしまう。

立樹が俺をゲットできたことで強運だと言うのなら、俺はもっと強運だろう。誰にでもイケメンと言われて、結婚までしていたノンケなのに、なにがどうなったのかゲットできてしまったのだ。それを強運と言わずになんと言うのだ。

だけど、もっと強運を……と願うのは欲張りだろうか。でも、それなりに出世したいしな。だからもう少し運が欲しい。マンションも買ったしな。


「まぁお昼まで少し休もう。で、ランチに行って、そのまま出かけよう」
「うん。なんか横になったら眠くなってきた」
「眠いなら寝ていいよ。起こしてあげるから」
「うん……お願い」

そう言うと俺は眠りについた。

少し仮眠し、立樹に起こして貰う。時計を見ると短い時間だけど、体はすっきりしている。深い眠りだったのかもしれない。


「ランチに行こう」
「うん」

ランチのイタリアンのお店は上階にあるのでエレベーターで上へと上がる。コース料理も出すその店は重厚感があった。今日はコースじゃないけど、ちょっと食べてみたい気もする。考えてみたらイタリアンのコース料理を食べたことがない。


「いらっしゃいませ」

そう言ってスタッフに通された席は運良く窓際の席だった。海がよく見える席だ。このホテルは海が近いため、至る所から海が見える。


「俺、カルボナーラ」
「じゃあ俺はペペロンチーノにするかな」

甘いものが得意でない立樹はパスタだとよくペペロンチーノにしている。間違えてもカルボナーラのようなものは頼まない。


「そういえば最近パスタ食べてなかったな」

以前は職場近くのイタリアンのお店に結構行っていたけど、最近は炒飯の美味しいラーメン屋によく行っている。


「ランチによく行ってるんじゃなかったのか」
「美味しい炒飯の店を見つけたって言っただろ。それからあまり行ってない」
「そうか。平日のランチに食べてると思って家で作ってなかったんだけど、今度作るよ」
「うん! 立樹はソースも手作りしてくれるから美味しいんだよな」
「悠はそう言ってくれるから作りがいがある」
「もし今日の美味しかったら再現してね」
「できたらね」

そう言って立樹の作る料理のことや平日のランチの話しをしているとパスタが運ばれてくる。美味しそう。


「「いただきます」」

そう言ってカルボナーラを一口くちにするとクリームのクリーミーさに粗挽き胡椒がピリっとしていて美味しい。


「立樹。このカルボナーラ美味しい!」

俺はランチのカルボナーラを一口食べて、思わず声を出してしまった。


「こっちのペペロンチーノも美味いよ」
「一口ちょうだい」
「じゃあ俺もカルボナーラ一口貰う」
「うん」

クリーミーなカルボナーラを食べていたからお水を飲んで口の中をリセットさせる。そして一口くちにするとにんにくと唐辛子のピリっとした味が口いっぱいにする。うん、美味しい。


「カルボナーラも美味いな。これなら再現できるかな?」
「わー。作って作って」

今、立樹が作ってくれているカルボナーラも美味しいけれど、もっと美味しくなるのは大歓迎だ。そして俺が外で美味しいと言うと立樹はできる限り再現してくれる。もちろん調味料とか食材の違いで完璧ではないけれど、そうでないものはかなりの率で再現させる。

立樹いわく、俺がいるから腕があがると言う。今まではそんなことはなかったらしい。唯奈さんと結婚していたときは料理をしなかったので唯奈さんは立樹の料理を食べたことがないと言う。立樹の作る料理はほんとに美味しいから可哀想だと思う反面、俺だけだと嬉しくもある。

パスタをペロリと平らげ、コーヒーで一息つく。


「地図ってあるの? 道大丈夫?」
「悠が寝てる間にコンシェルジュに地図貰ってきた」

立樹のエスコート力ってほんとスマートだよなと惚れ惚れする。同じ男だけど俺にはできない。


「じゃ、行こう」
「ああ」

そう言って午後のワイナリーに行くべく席を立った。

ワイナリーまでは車で1時間ほどで、立樹の運転で行く。

ワイナリーでは工場見学もできるらしい。でも、一番のお目当てはワインを買うこと。できたら赤と白1本ずつ欲しい。


「ワイナリーなんて初めてだよ」
「俺は山梨で一度行ったな。工場見学なんてしてないけど。お目当てはワインを買うことだから」

そう言って立樹は笑う。確かにそうだ。収穫体験なんていうのもワイナリーによってはあるみたいだけど、そんなのは一年中やっているわけじゃなく、収穫は8月の終わり頃にするものだ。つまり9月に入ってしまっている今は収穫は終わってしまっている。なので工場を見ることくらいしかない。

ワインを買うのはどこででも買えるけど、ワイナリーで買う場合テイスティングできるところがあるということだ。テイスティングできると自分好みの1本を見つけることができる。

そんな話しをしていると、あっという間にワイナリーに着く。まずは工場見学から。

工場では一番最後の収穫である甲州が機械の上に乗っていた。コンベアの上はぶどうだらけ。こんなにすごい量なんて収穫するのは大変だろうなと思う。

そして圧搾。圧搾でできたものはぶどうジュースだ。ぶどうジュースを試飲できるところもあるらしいけれど、ここではできなかった。でも、工場の中はむせかえるほどのぶどうの香りが充満している。

このぶどうジュースになったものを樽に詰めるんだな、と見ている。


「テイスティングしに行こうか」
「うん」

工場を出て、ワインのテイスティングコーナーへ行く。


「立樹に任せたからな」
「レンタカーだとこういうとき不便だな」

テイスティングするのは当然だけどアルコールの含まれたワインだ。それを少量とはいえテイスティングすると車の運転ができない。

行きは立樹が運転してくれたから帰りは俺の運転になるので、テイスティングは立樹1人だ。2人で呑むものを選ぶわけだけど、俺は立樹の舌を信じている。

立樹は順々にワインを口に含んでいく。それなりの種類をテイスティングして赤1本、白1本を選んだ。


「多分、悠も好きな味だと思うよ」
「なら大丈夫だね。立樹は俺の好みの味を知っているから」
「外れたらごめんな」
「立樹の舌を信じているから大丈夫」
「なんか期待されると不安になってくるよ」
「大丈夫だよ。俺、立樹が選んだものも作る料理も全部美味しいって思ってるから」
「そっか。じゃあ良かった。よし、ワインも買ったし神社に寄ってから帰ろうか」
「うん。ナビよろしくね」
「了解」

車に乗り、神社に向かいながら、どんな神社なのかを立樹に訊く。


「日本最古の夫婦神を祀っているんだよ」
「夫婦神って言うと、伊邪那岐命と伊邪那美命?」
「そう。だから縁結び」
「なるほどね。で、強運を授かるっていうのは?」
「2本のご神木のうちの参道にある1本の楠の根元にあるコブに触れると強運を授かるって言われてる」
「根元のコブね。それをこれから触りに行くわけだ」
「そう。もう良縁は必要ないけど、強運ではありたいからな」
「うん。まずは出世」

立樹も俺も今のところ順調に進んではいるけれどこの先はわからない。だから強運を授かりたい。出世って強運じゃないのかもしれないけど、出世なんてどこでどう転がるかわからないから。それに強運なら宝くじとか当たるかもしれないし。


「宝くじって言うなら、今年の年末ジャンボ買うか」
「買うーー! で、当てるんだ。なにに使うか考えないと」

俺がそう言うと立樹は助手席で笑った。