EHEU ANELA

遠回りのしあわせ〜You're my only

出会い2

「じゃあ可愛いって言われるのは喜んでいいのかな」
「可愛いという形容詞が嫌でなければ喜んでよ。褒め言葉として言ってるから」
「じゃあ、ありがとう。格好いい立樹に言われるのは特に嬉しい」

そうだ。可愛いと言われるのは初めてじゃない。付き合ってきた彼氏にも言われてきたし、それ以外の男にも言われてきた。でも、言われて一番嬉しいのは立樹だ。歴代彼氏には申し訳ないけれど。


「立樹、今日ピッチ早くない?」

見ると、立樹のグラスはほぼ空になっている。来たのは悠の方が早いから、普通なら悠の方が早く空になるはずなのに。


「喉乾いてたのと、彼女のことでモヤモヤしてるからかな。ママ、ビールおかわり」

そう言って立樹は二杯目を注文する。そんな立樹を横目で見やる。

可愛いと思うのなら好きになってくれればいいのに。そしたら、わがままなんて言って困らせたりしないのに、と思う。

  

彼女はどんなにわがまま言ったって、女っていうだけで立樹に好きになって貰えるんだ。そんなのずるい。ゲイにとってもノンケにとっても性別という壁は高いんだな。


「モヤモヤしてても別れないんだろ?」
「このくらいならね。もっと酷くなったら考えるけど」
「そうなんだ。立樹も大変だね」
「悠だってそんな経験あるだろ?」
「何回か繰り返したら別れるかな」
「一緒だよ」
「一緒かぁ。やっぱり恋愛面倒くさい」
「そんなこと言ってると彼氏できないぞ」
「彼氏かぁ」

確かに面倒くさいだなんて言ってたら恋愛なんてできない。それは確かだ。でも、恋愛するのなら、立樹としたい、と思う。

あぁ、やばいなぁ。好きになっちゃったみたいだ。確かに、好みどストライクだ。だから声をかけたのもある。だけど、立樹がノンケである以上、この思いは実らないのだ。

ノンケなんて好きになったら負けだよなぁ。まぁ、負けもなにも好きになっちゃったら仕方ないんだけど。落ちようと思って落ちてるんじゃないしな。


「どうした?」

立樹が心配気に訊いてくる。


「え? いや。次はいつ恋するのかな、って思ってさ」
「彼氏できたら紹介しろよ。ジャッジしてやるから」

いつ恋ができるかなんて、今してる。そんなこと言えないけれど。

自分で自分をジャッジしたらどうなるんだろう。


「自分をジャッジしたらどうなる?」

いたずら気分で訊いてみた。

 
「自分を? 難しいな。まぁ、でも真摯に付き合うから悪くはないと思う。って自分のことそういうの自意識過剰かな?」

立樹はそうやって笑う。そっか、真摯にか。やっぱり彼女が羨ましい。しばらくはこの気持ちと付き合うしかないのかな、と心の片隅で思った。





「で? 好きになっちゃったの?」
「うん……」

あきママの問に小さく答えた。あきママは呆れた顔をする。

そりゃそうだ。ノンケを好きになったっていうんだから。

今日は仕事終わりにあきママのお店に寄った。近況報告を兼ねて。


「まぁねぇ。恋なんて落ちようと思って落ちるものじゃないけど、ノンケはねぇ」
「わかってる。わかってるよ。不毛だって言うんだろう」
「あら、わかってるじゃない」

ノンケの立樹のことを本当に好きになってしまった、と報告したのだ。

ゲイにとってノンケを好きになったら不毛だ。だって絶対に叶わない恋だと最初からわかっているのだから。

かといってあきママの言うように落ちようと思って落ちてるわけじゃない。

まぁでも今回のことは防ぎようもなかったかもしれない。だって、初めて見たときに好みだと思ったのだから。

いわゆる一目惚れだ。好みどストライクだったから一目で恋に落ちた。

一目惚れなんてあるとは思ってなかった。外見だけ好みだって好きになることはない、と思っていた。でも、あったのだ。外見が好みどストライクでそれだけで好きになってしまった。

そして距離が近づいて、人となりを知るにつれて想いは強固なものとなったのだ。

一目惚れではいくら気をつけたって無駄だ。想いが確かなものになるのは、まだ防げられたのかもしれない。性格に難があれば一目惚れも冷めただろう。でも、難なんてなかったのだ。それどころか誠実なところに惹かれた。つまりはダメ押しされたようなものだ。


「ノンケはゲイの敵よ」

あきママはいつもそう言う。でも確かにそうかもしれない。

俺も経験あるが、ノンケ相手にどんなに好きになろうが報われる日は永遠にこないのだ。

相手がゲイだって、両想いになるのは奇跡に近いと悠は思っている。

でもそれがノンケ相手だったら奇跡が起こることなんてないのだ。つまり両想いになる可能性は0%だ。

時間だけ無駄に食うのだ。


「でも落ちちゃったならどうしようもないわよね」
「でしょー。好みどストライクだったんだよ」
「よっぽどいい男なのね」
「めちゃいい男だよ」
「会ってみたいものね。連れて来なさいよ」
「え~ここに?」
「ここ以外どこがあるのよ。わたしの店はここだけよ。あ、カミングアウトしてないの?」
「カミングアウトはしてる」
「ならいいじゃない」
「え~取らない?」
「あら、取り合いになるようないい男なのね。余計に会いたくなるわ」
「まぁ、そのうちね」

 

立樹にはカミングアウトしてる。だから、ゲイばれを気にする必要はないのだ。

でも、ここに連れて来たら、あまりのディープさに立樹は驚くだろうし、何より立樹がモテるであろうことが嫌なのだ。

自分のものではないし、自分のものになることはない。でも目の前で立樹がモテているのを見るのは嫌なのだ。

単なる友達だけど、友人としてでも取られるのは嫌なのだ。単なる独占欲だけど。

ノンケ相手に恋をして、独占欲出して馬鹿だな、と思う。思うけど、元々恋なんて馬鹿なものだ。

でもなぁ、ノンケ相手だったら大馬鹿だ。そう思って小さくため息をついた。