今日は立樹が派遣さんの歓迎会だから帰りが遅くなるって言ってたから、俺は一人であきママの店に来た。
金曜日ということもあって店は結構ざわざわしてる。でも、本格的に混むのはこれからで、それまでには店を出ようと思ってさっさとあきママを捕まえた。
同棲を始めたことを伝えると目を丸くして驚いていた。
確かに付き合いは順調だ。それでも付き合って3ヶ月で同棲を始めるとは思わなかった。そんなに早いのなら、なんで立樹は結婚する前に元カノと同棲してなかったんだろう。今になって疑問だ。
俺の場合は確かに週末は立樹とずっと一緒だからそれで十分だった。立樹だって立樹の時間が必要だし。そう思っていた。だけど、同棲を言い始めたのは立樹からだ。
そう。
2人で住む家を買うというのはすごい夢だ。そんなに簡単ではない。住宅ローンを組まなきゃいけないし、どちらの名義で組むかの問題もある。
それ以前に、家まで買っちゃったら簡単には別れられないんじゃないかと思う。
もちろん、別れを見据えて付き合っているわけじゃない。立樹とはずっと一緒にいたいと思う。でも、男女の結婚みたいに2人を縛るものがあるわけじゃない。気持ちひとつなんだ。だから簡単に考えられない。でも、立樹は考えていて。それは半年とはいえ結婚してたからなのか俺にはわからないけれど。
今の日本の法律では同性婚は認められていない。だから同棲がゴールのようになってしまう。いや、結婚じゃないけれど近いものとしてパートナーシップ制度がある。
でも、その制度を使うカップルってどれだけいるのか。少なくとも俺は聞いたことがない。
立樹がそこまで考えているかはわからない。だけど、そこらのゲイカップルがなかなか考えないところまで考えているような気がする。
そう言って店が混みはじめた頃に店をでた。
パートナーシップ制度。
この制度を立樹は知っているのか。それはわからない。でも、家を買う話しが出るくらいだから知ってると考えてもいいかもしれない。
俺はそこまで考えられるのか? 立樹とほんとにずっと一緒にいたいと思っているのか?
1人の夜にそんなことを考えた。
月末。月次決算を無事に終えて帰宅した。時計をみたら21時半を回っていた。
こんなとき職場が近いというのはいい。実家も近いと言えば近いけれど、ここまで近いわけではない。
立樹は仕事が忙しくて残業で帰宅が特に遅くなるときを除いて食事の支度をしてくれる。
実家だって母親が食事の支度をしてくれていたから着替えればすぐに食べられるのは変わらないけど、ひとつ違うのは、今は家に帰ると立樹がいることだ。
家に帰ると好きな人がいるというのはいいものだな、と立樹と住むようになってから知った。
もちろん、立樹が遅くなったときは俺が待ってる。残念ながら料理は少ししかできないけど、簡単な豚丼くらいは作って。
でも、疲れて帰ると好きな人がいるといるというのは仕事の疲れもどこかへ行ってしまう。
こういうのがあるから立樹も一緒に住みたいと早い段階で言っていたのかなと思う。
そう言って立樹は笑うけど、俺が仕事で遅くなるときは必ずと言っていいほど食べないで待っていてくれる。
そう言う俺は、待てるときは待ってるけど、お腹が空いてると先に食べちゃう。それに食べないで待ってると立樹に怒られるから。
そう言って立樹は笑うけど、来月も同じ会話をしそうだ。
立樹は俺に甘い。甘やかしてくる。これでは立樹から離れられなくなる。まぁ、離れる予定はないけど。
俺は元々麻婆系が好きではあるけど、立樹の作る麻婆がとにかく美味しいのだ。実家の母親はレトルトの麻婆なのに、仕事をして帰ってきた立樹が面倒くさがらずに作ってくれるのは嬉しい。
辛みのある麻婆がたまらない。
美味しい麻婆豆腐を食べながらそんなことを考える。
俺がそう言うと立樹はおかしそうに笑う。この会話は今に始まったことじゃなくて、前からしている。でも、立樹は自分が作れるからいいんだと言って聞かない。
このセリフを聞くのも初めてじゃない。俺を甘やかすのが楽しいとかわけがわからない。
冷めた麻婆は食べたくないから急いで食べるけど、馬鹿なこと言ってないでってなに? 俺、馬鹿なことなんて言ってないのに。
立樹は俺を甘やかしてくるけど、元カノもとい元奥さんとかも甘やかしてたんだろうか。
そんなことを言われて、恥ずかしくて顔が熱くなってしまう。これは絶対に麻婆のせいじゃない!
そう言って笑う立樹に、恥ずかしくてご飯をかき込んでしまう。
立樹は甘い。それに俺は弱い。恥ずかしくてなんて言ったらいいのかわからなくなって黙ってしまう。
俺の言ってることはおかしくないと思う。それでも口で立樹には敵わなくていつもこうやってフェードアウトしてしまう。
でも、そう言っている立樹は確かに幸せそうだから、ついそのままにしてしまう。
立樹が甘やかすから俺にとっては立樹と暮らすのは楽しいし幸せだけど、立樹もそうだといいな、と願ってしまう。そのためには、料理、もう少し頑張ろう。