EHEU ANELA

遠回りのしあわせ〜You're my only

2人の生活1

悠との付き合い始めて3ヶ月になるが、付き合いは順調だ。

最初のうちは土曜か日曜にいわゆるデートスポットをはじめ、色々なところに出かけたりしていたが、最近では金曜の夜に呑んでそのまま泊まり翌日デートに出かけたり、おうちデートしたりしている。

週末のほとんどをうちで過ごし、日曜の夕方に帰るパターンになっている。

そうやって俺の家にいる時間が長いのでマグカップや食器類を購入して置いてあるし、部屋着や服も数枚持ち込んである。

2人で過ごす時間がすっかり当たり前になってきた。

悠と過ごす時間は楽しいし楽だ。

一緒に動画配信サービスで映画を観たりもするけれど、2人で別々のことをしていたりもする。

俺がテレビを見ていて、悠が本を読んでいたり。そこに会話はないけれど、悠の休憩時間を見計らってコーヒーを淹れたり。

唯奈との結婚生活は違った。2人で違うことをして過ごすというのは少なかった。俺としては一緒にいるだけでもいいんじゃないかと思っていたけれど、唯奈は映画を観るなら一緒に観て感想を共有したがったし、稀に俺が持ち帰った仕事をしているとあからさまに詰まらなさそうな顔をしていた。

でも、悠にはそういうのはない。俺が仕事をしていたら1人でなにかをしている。

正直、唯奈と付き合っていて窮屈に感じたことがないではない。特に仕事をしているときにそれを感じることが多かった。

だけど悠との付き合いにおいてはそういったことがないので、付き合っていて楽だ。

そうやって自然体で一緒にいるのが楽だから、ずっと一緒にいたいと思うようになった。

 
「悠。一緒に住まないか?」

俺がそう切り出すと悠は目を丸くした。


「え?」
「どうせ週末はほとんどうちにいるんだし。前にも言ったけど一緒に住みたい。俺と暮らすのは嫌?」
「嫌とかじゃないけど、この家で?」
「ここじゃなくてもいいけど。そっかこの家だと唯奈の影があるか」
「うん……」
「じゃあどこか引っ越してさ」
「いつも俺がいていいの?」
「今さらなに言ってるの。2人でいたって別のことしてたりするじゃん。もし悠がいることが気になるならそんなことできないよ」
「まぁ、それはそうだけど」
「俺と暮らすのは嫌?」
「そんなことないけど」
「けど?」
「立樹の邪魔にならなければいいんだ。そうでなかったら気が休まらないでしょ」
「邪魔になったりするなら言わないよ。言い出してるの俺だよ?」
「あ、そっか」

自分が一緒にいることが邪魔にならないか、気が休まるか。そんなことを気にしている。

そんな悠を見ていて、比べてはいけないけれど、どうしても唯奈と比べてしまう。


「で? イエス? ノー?」

俺が返事を求めると悠は笑顔で返事をくれた。


「イエス! あ、でも他の家がいい。それ条件でイエス」

そうだよな。今は週末一緒にいるだけだけど、一緒に住むとなると毎日だ。ここを借りるときは唯奈と一緒に借りたけれど、悠にしてみたら元奥さんの影がちらつくのだから引っ越しを求めるのは自然だ。


「じゃあ、さっそく部屋探さなきゃな」
「うん!」

そういって笑う悠はほんとに可愛い。

週末だけでなく毎日一緒にいたい。ずっと一緒にいたい。そんな思いが強くなっていった。

そう話した後の行動は早かった。

ネットで賃貸住宅を会社に行ける範囲で探す。

距離は俺の仕事場と悠の職場は一駅しか変わらないので、その辺の距離の差は考えない。

ただ、出来ればこの駅かもう少し近い方がいい。

部屋の間取りは2LDK。

寝室は一緒でいいので1LDKでもいいのだけど、たまに仕事を持ち帰ったときや誰かが泊まりにきたりするときように一部屋あるといいからだ。

そんな条件でまずはネットで探してみると結構ヒットした。

セキュリティを重視して、築年数はそれなりでも構わない。

そんな条件でもそれなりにヒットしたので、週末の明日・明後日で見ていくことにした。

数件内覧をして、ここが最後の内覧だ。

2LDKで築年数はまあまあ。駅は俺の職場まで2駅。悠の職場までも3駅と近い。家賃は安くもなく高くもなく。2人で家賃を払うからちょうどいいくらいだ。

寝室はベランダに面していて日当たりがいいし、リビングダイニングも広い。

駅からも徒歩10分以内でスーパーも近い。それも2件も。

良い条件が揃っている。揃いすぎているくらいだ。


「ここ、いいんじゃないか?」
「そうだね。日当たりいいから布団も干せるし、スーパーが近いのがいいよね」
「ここに決めるか」
「うん」

ベランダで外の景色を見て話す。

周りは戸建てが多いので、繁華街のビル群がしっかり見える。夜景はそれなりに綺麗なんじゃないだろうか。

その部屋にすることを内覧中に決める。

条件が良いので保留にしたらすぐに決まってしまいそうなので、その場で不動産屋にこの部屋にすることを話し、その足で不動産屋に行き契約をする。

契約を終えて外に出ると2人とも胸が躍っていた。

 
「良いところがすぐに見つかって良かったね」
「部屋探しは難航するかなと思ったけど2日で終わったな」
「うん、あっけないくらい」
「じゃあ後は引っ越し業者探して引っ越しだな」
「俺、人生初の引っ越しなんだけど」
「そっか。ずっと実家だろ」
「そう。職場まで出やすいから引っ越す必要なくてさ」
「そうだよな。俺は乗り換えが必要になるし1時間かかるから一人暮らししたけど、悠の家じゃ必要ないもんな」
「そうなんだよ。だから家を出るっていったらびっくりされるだろうな」

そう言って悠は笑う。


「引っ越し、何気に大変だぞ」
「そうなの?」
「荷物を段ボールに詰めていくのが何気に大変だし、なぜか引っ越しでなくなるものが出てくるんだよな。実家を初めて出たときに見つからないものあってさ」
「実家に忘れたんじゃなくて?」
「いや、ない。帰省したときに探したけど実家にはなかったんだよ。段ボールに入れた記憶あるんだけど。だから入れたものは細かく段ボールに書いて番号振っておくといいよ。それをメモ帳にも記入しておくといい」
「へ〜。じゃあやってみる」
「あ! 悠、ベッド買いに行こう」
「あ、うん。今のあのベッドって……」
「そ。だから引っ越すなら新しい方がいいだろ」
「うん!」
「じゃあこの足で行っちゃうか」
「そうだね。まだ時間もあるし」

そうしてショッピングモールへ行きベッドを選ぶ。


「部屋が狭いからローベッドがいいんじゃないか?」
「うん……」
「広さは? ダブル? クイーン?」
「うん……」
「悠!」

悠は顔を赤くして話しにならない。


「そんなことしてると決まらないよ」
「だって……恥ずかしいじゃん、男同士でさ。立樹恥ずかしくないの? ゲイなの俺だよね?」
「店の人だって、そのときはなにか思うかもしれないけどさ、一日に沢山の人を相手にするんだからすぐ忘れちゃうよ」
「そうかな?」
「そう。そういうもんなの」

俺がそう言った後は顔を赤くしながらも意見を言ってくれた。

付き合って気づいたのは、男同士なことを気にするのは、案外悠の方だったりした。俺だって全く気にならないわけじゃないけど、客の記憶なんてすぐに消える。

それになにも悪いことをしているわけじゃないから堂々としていていいんだ。

そう思うから俺の方が落ち着いている。

でも、顔を真っ赤にしながら選んでいる悠は可愛いけど。

 
「で? ダブル? クイーン?」
「クイーンなんて入れたら部屋いっぱいになっちゃわない?」
「ダブルでも部屋狭くなるもんな」
「そしたらダブルでいいんじゃない?」
「そうだな」

そう言ってダブルのローベッドを選んだ。


「他に買い換えるものあるかな?」
「んー。別にないんじゃない? もしあったら引っ越し前にまた買いに来ようよ」
「そうだな」

入居日まで後少し。悠と一緒に住めるのが楽しみだった。



「ふー。やっと荷物の搬入終わったな。後は荷解きか。ゆっくりやっていくか」
「そうだね。引っ越しってほんとに大変だね」
「だろ? でも、もし今度引っ越すなら賃貸じゃなくて持ち家を買ったときがいいな」
「そうだね。家賃を払い続けるならローンを払い続ける方がいいよね。賃貸じゃいくら払ったって自分のものにはならないからね」
「そ。そのために頭金となるものを貯金してるから。悠もあるんじゃない?」
「家の頭金っていうわけじゃないけど、それなりには貯めてるのかな?」
「じゃあそのうち2人で住む家買いたいな」

そう言うと悠は真っ赤になった。

2人で住む家と言っただけでなんで赤くなるのかわからないけど、どうもこの手の会話には慣れていないらしい。

付き合って思ったことは、悠は根っからのゲイだけど結構男同士でなにかをしたりするのは恥ずかしいらしい。

付き合うのは特に恥ずかしくはないみたいだけど。

その点、ノンケだった俺の方が恥ずかしくはない。もしかしたら、それは承知の上で付き合い始めたからかもしれない。

恥ずかしがる必要はないだろうと思うけど、恥ずかしがっている悠は可愛いから敢えてなにも言わない。


「悠はほんと可愛いな」
「なんで。この会話で可愛いとかなんで出てくるの?」
「顔真っ赤にしてるの見てみろよ。可愛いって言いたくなるって」
「だって、2人で住む家って言ったらまた2人で家を見に行かなきゃいけないじゃん」

そうだ。忘れるところだった。部屋探しで2人で家を見て回っているとき、2人で見に行くことが恥ずかしいと赤くなっていたんだった。

悠いわく、「2人で住むんだって宣言してるみたいで恥ずかしい」らしい。


「なんで立樹は平気なの? ノンケでしょ」
「そうだけど。悠と付き合う時点で色々考えたからかな? 逆になんで悠が恥ずかしいのかわからない」
「だって洋服買いに行ったりするのと違うんだよ」
「ま、違うだろうな。家は2人のなんだからさ。まぁ、今はそれを乗り越えたわけだから。とりあえずいいんじゃん?」
「うん」
「まぁ、今日は少し荷ほどきしてから夜はピザかなにか取ろうか?」
「ピザとビール!」
「禁断の組合せな気がしなくもないけど、たまにはいいか」
「やった!」

そう言ってそれぞれに荷解きをしていった。

取り急ぎ通勤に必要なものを先に荷解きをした。それから部屋着や私服。小物。でも、唯奈との結婚で引っ越してから一年も経っていないから荷物はそれほどなかった。

疲れたしコーヒーでも飲もう。


「悠は終わりそう?」
「もう少しで終わる」

悠も持ってくるのは最低限のものにしたようなのでそれほど荷解きに時間はかからないようだ。もし必要となったら取りに帰ればいいだけだし、実際に暮らしてみるとそれほど必要なものって少ない。


「コーヒーでも飲もう」
「うん」

コーヒー豆をセットし、コーヒーが落ちるのを待つ。

これから始まる2人の生活が楽しみで仕方ない。今までは週末だけだったけど、これからは毎日だ。

家に帰れば悠がいる。

職場だってさほど離れてないから朝は一緒に通勤する。そんな毎日が楽しみだ。


「コーヒー落ちたぞ」
「うん」
 

入ったコーヒーをお揃いのマグカップに淹れる。こんなことだって毎日になるんだ。そんな些細なことが楽しみだ。

唯奈との結婚では特に考えなかったことが悠とだと考える。この違いはなんだろうと考えて、やっぱり悠のことがほんとに好きだからだろうなと思う。

2番目に好きだからなんてダメだったんだ。男同士で付き合うハードルが高いとか思ってたけど、それを乗り越えてしまえば毎日がどれだけ楽しみか。

ほんとなら唯奈と感じるべきものを今感じている。毎日悠といられること。それがほんとに楽しみで仕方ない。

そして、さっき悠に言ったけれど、そのうち2人で住む家を買いたいっていう気持ちがある。悠はどこまで思っているかわからないけれど、俺はできるだけ若いうちに買いたいと思っている。

でも、それはもう少し先の話だ。まずはこれからの生活だ。これからの生活を楽しみたい。それも悠となら楽しいだろうと思っている。