EHEU ANELA

遠回りのしあわせ〜You're my only

甘いデート2

映画が終わった後は、カフェで映画の感想を言いあい、その後はウィンドウショッピングをしながら夕食の時間までを過ごし、創作料理の店で夕食を食べた後は、夜景の綺麗なホテルのバーに来た。

今日の2つ目のメインだ。

ホテルの上階にあるそのバーは全ての席が窓を向いている。

ふんわりとしたソファが座り心地良くて、しかも目の前には綺麗な夜景で、しかも隣の席との間隔が結構あいてるから心身ともにゆったりできる。

繁華街でありながらオフィスビルもそこそこある街だからか、ネオンのないところは見当たらないくらい明るい。

下を歩いているときは人も車も多くて嫌になるけれど、上から見るとそんな車のライトが流れていて綺麗に見えるとは思わなかった。


「結構綺麗だろ?」
「綺麗! 車が多いの嫌になってたけど、その車がいい光になってるなんて思いもしなかった」
「そんなもんだよな。俺も初めて来たときはそう思った」

初めて来たときは……。

きっとそのときは可愛い彼女と一緒に来たんだろう。

そしてそれは1回ではないかもしれない。

そんな立樹が今俺とデートをしてくれているというのが不思議だった。だって立樹はノンケだから。そんなイケメンノンケの立樹が俺を好きになってくれたのが夢のようだ。


「どうした?」
「え?」
「なにか考えてなかった?」
「あぁ、うん。こうやってデートしてるのが夢みたいだな、って思ってた」
「夢じゃないよ」
「うん」
「言ったことは嘘じゃないから」

言ったことって、好きって言ってくれたことだよね? もうそのことが夢のようなんだけど。


「なんで立樹みたいなイケメンがそう言ってくれたんだろ。綺麗な女の人も可愛い人もいっぱいいるし、綺麗な男だっていっぱいいるのに。なんで俺なんかをって思う」
「ほんと悠は自覚ないよな。可愛いって言ったことあるだろ」
「あ、なんか言われたかもしれない」
「ほんとなぁ」

立樹は長いため息をつく。え、そんなため息をつく?


「少しは自覚してくれ」
「だって……」
「だって、じゃないよ。ほんとに。可愛いから執着されて襲われたんだろうし。襲われたの忘れた?」
「まさか。覚えてるよ。痛かったもん」
「あれって、フラれたけど執着してたってことだろ」
「そっか。でも、たまたま好きになってくれただけでしょ。そんなに可愛いって思われるタイプとは思えないけど」
「ほんとに無自覚だな。どうやったら自覚を持ってくれるのか。とにかく、今デートしてるのは夢じゃないから」
「わかった」

無自覚っていうことはないんだけどなと思うけれど、今は美味しいお酒と綺麗な夜景を楽しみたい。


「あの元カレとはこういうところ来なかったの?」
「夜景の綺麗なところは連れて行って貰ったけど、こういう夜景の綺麗なバーはなかったな」

ただの夜景の綺麗ところもいいけど、こんなにがっつりと綺麗な夜景を見ながら呑むって最高かもしれない。


「立樹はよく知ってるね、こんないいとこ」
「ああ。会社の同僚に聞いたから」
「あ、職場近いもんね。でも、デートでよく来た?」

しょっちゅう来たよって言われたらどうしよう。いや、どうしようもなにも、結婚してたんだから元奥さんと来てたとかあるだろうし、それ以外の彼女だって来てるかもしれない。


「それさ、自虐だろ」
「だって……」
「一緒に来たのは1人。元奥さんと数回」
「あ、そんなもんなんだ」
「あのなぁ。俺、誠実なお付き合いしてたの。そんなにたくさんとっていうことはないよ。大体、ここの存在知ったの一年ちょっと前なんだから」
「そっか。そうなんだ」
「過去がないとは言わない。結婚してたのは悠も知ってるわけだし。でもさ、そんなに乱れた付き合いはしたことないし、それになにより今は悠が好きだから。それだけはしっかり覚えておいて。悠のこと可愛いと思って付き合ってるの」

好きだからとはっきりと言われて恥ずかしくなって下を向いてしまった。なんで立樹は普通に言えるんだ? しかも可愛いとかさ。


「あのさ、恥ずかしくない? 聞いてて恥ずかしくなっちゃった」
「別に。ほんとのことだから。それにはっきり言っておかないと夢とか馬鹿なこと言うからな」

言われちゃった。だって、ほんとに立樹とこんなデートをしてるっていうのが夢みたいなんだ。ノンケの立樹が振り向いてくれるなんて0%だと思ってたから。

どんな奇跡が起こったんだろうって思っても仕方ないだろう。そういえば、キスされたこと何回かある。


「ね、立樹。前にさ何回かキスされたことあるけど、それって……」
「好きだからだよ」
「え? だって結婚する随分前からだよ」
「その頃から好きだった。でも覚悟がなかったんだ。だから唯奈と結婚した」
「そうだよね。普通は男と付き合うなんてって思うよね」
「偏見はなかったけど、いざ自分がってなるとな。でも、悠が襲われたとき怖くなったんだ。もし通りかからなかったら死んでたかもしれないって。唯奈を失うより悠を失う方が怖かったんだよ」

そういえばあのとき、泣いていたように見えたのは、ほんとに泣いてたのかもしれない。

でも、それで奥さんと離婚して、俺的には夢を見てるみたいだけど元奥さんには悪夢だろうな。そう思うと喜んでいいのかわからない。


「元奥さんにとっては悪夢みたいだろうな」
「それは俺が背負うべきもので悠が背負うものじゃないよ。不倫してたなら話しは別だけど、不倫はしてないからな。俺、あのときフラれてるし」
「そりゃそうだよ。だって奥さんがいるんだもん。そんなことダメだよ」
「だろ。だから離婚した。俺には悠しかいないと思ったから。悠が襲われたときは俺が悪夢見てるみたいだったよ」

そっか。そんなに前から好きでいてくれたのか。


「とにかく。今は夢じゃないから。現実だから。それだけは覚えておいて」

釘を刺される感じで言われてしまった。でも、ノンケを好きになってそれが叶っちゃったなんて普通はないから許して欲しい。

だけど、立樹が俺のことを好きだって言ってくれるのは信じよう。


「あーでも、普通に夜景の綺麗な場所にしておけばよかった」
「なんで? 夜景見ながら呑むの最高じゃん」
「そうだけどさ、キスできないじゃん。暗がりならキスできるのに。そう考えるとあの元カレ、よく我慢できたな」
「俺に好きな人がいるの知ってたからじゃない?」
「そっかー。尊敬するよ。俺ならできない」
「後でじゃダメ? キス」
「そんなこと言ったらがっつくぞ」
「うん」
「悠って小悪魔なタイプだったんだな。あとでじっくりするからな」

はっきりと宣言されて、きっと今の俺は赤くなってるだろう。

だけど立樹にされて嫌なことじゃないし、そう思ってくれるのは嬉しいから、ちょっと楽しみにしておこう。



「まぁ!付き合うことになったなんて。あんたったらイケメンノンケを落としたのね。なにやったの? どうしたら落とせるのか教えてよ。私もイケメンノンケ落としてみたいから」
「別になにもしてないよ。普通にしてただけ」
「悠は普通にしてても可愛いから」
「まぁ。ごちそうさま。甘いわねー」

立樹と付き合うようになってあきママに報告に行った。

以前、立樹を連れてきたことがあるからあきママとしてはイケメンが来たっていうノリで話しかけてきたんだけど、そこで「付き合うようになった」と言うと、目を丸くして驚いた。


「イケメンノンケを落とす方法っていう本を書いたら、その辺のゲイがこぞって買うわよ。大体、ノンケは落とせないからゲイの敵なのに、落とせるなら希望が持てるじゃない?」
「儲かるかなー? 書けるなら書きたいけどなにもしてないから書けないよ。してたことって言ったら一緒にお酒呑んでただけだもん」
「一緒にお酒呑んだだけで落とせるなら誰も苦労しないわよ。ね、立樹さん、ほんとにどうしてこの子に落ちたの?」
「あ、立樹でいいですよ。どうして落ちたって可愛いからですね。特に酔って笑ったときのふわっとした笑顔が可愛いじゃないですか」
「あら、ありがと。でも、この子の酔っ払って笑うのなんて飽きるほど見てきてるけど、ノンケを落とせるような力があるとは思わなかったわ」
「ふにゃっとした顔で笑ったりするじゃないですか。それなんかほんとに可愛いと思いますよ」
「私もネコだからわからないのかしら。まさか立樹が受けなんてことは……」
「それはないですよ」

なんか恥ずかしい。

立樹の甘いのも恥ずかしいし、セックスについてなんてもっと恥ずかしい。立樹、はずかしくないのかな?


「そうよねー。じゃあ今度イケメンノンケの前で酔って笑ってみようかしら。この子みたいに骨のない笑った顔はできないけど、笑うくらいはできるからね。それでノンケ落とせるかしら」
「ママー。ママ、今彼氏いるじゃん。彼氏いるのにいいの? 浮気じゃん」
「それとこれは別よ。付き合うのは今の彼氏よ」
「うわー。ずっるい」
「なによ、イケメンノンケ落としといて。今日の飲み代倍にするわよ」
「やだやだ。嫉妬は醜いよ」
「まぁ! 自分がイケメンノンケ落としたからって。可愛くないわね。ソルティドッグでも飲む?」
「え、なんで? 今は他の呑んでるからいらない。というか俺、ソルティドッグなんてほとんど呑まないよ?」
「塩をたくさん入れてやろうと思ったのよ、あまりに可愛くないから」
「嫉妬してんじゃん。彼氏に言いつけちゃうよ。今日来ないの?」
「さあね」

俺とママの掛け合いを聞いて、立樹が隣で笑っている。


「立樹、なに笑ってるの?」
「いや、面白くて」
「この子とは大体いつもこうよ」
「うん。そうだね」
「可愛がって貰ってるんだな」
「可愛がって貰ってないよ」
「まぁ。ほんとに可愛くないわねー。これのどこが可愛がってないって言えるのかしら。存分に可愛がってるでしょ」
「そうやって言い合えるって仲良くないとできないから。なんか妬けるな」
「立樹! ママ相手に妬くのおかしいから!」
「悠はどこにいても誰といても可愛いんだっていうことがわかったよ」

甘い笑顔でそんなセリフを言う立樹に、俺は恥ずかしくなってしまった。きっと今、真っ赤になってるに違いない。

まだ今は一杯目だから赤くなるほど呑んでないのに。立樹の甘さは誰の前でも健在らしい。


「ご馳走様。さぁ、お酒作らなくっちゃ。あんたたちはまだいっぱい残ってるわね」

そう言ってママは他のお客さんのところに行く。良かった。これで第三者に聞かれることはなくなった。


「ねぇ立樹。恥ずかしくない?」
「なにが?」
「なにがって。可愛いとかさー」
「ん? 別に。悠が可愛いのなんて今さらだろ。ずっと前から可愛いって言ってるだろ」
「そうだけどさー。他の人に聞かれると恥ずかしい」
「恥ずかしがってる悠も可愛いよ」

ダメだ。なにを言っても甘い言葉が出てしまう。ママがいなくて良かった。


「でも、これ以上他のヤツに悠の可愛さ見せたくないから帰るぞ」
「え? もう?」
「ここだとゲイの男ばっかだろ。悠が無意識に落とすからダメ。呑むならうちで呑み直そう」
「誰も落ちてくれないのに」
「落ちるんだよ。じゃあ、ママ、ご馳走様でした」

立樹がママに声をかけるとママがこちらを向く。


「またいつでもいらっしゃい」
「はい」

ママに話している立樹の顔は普通。

調子に乗ってると思われそうだけど、立樹が甘い顔を見せるのは俺に対してだけだ。

それが恥ずかしい反面嬉しい。

いつも今のままでいたいな。