ハワイでのウエディングまでは時間があると思っていたけれど、3ヶ月は意外とあっという間に過ぎた。
その日は午後役所へ行き本人確認をしてもらい、宣誓書等に記入をして宣誓要件の確認後、宣誓要件を満たしていることを確認してもらい受領書を貰った。
パートナーシップ証明書を貰い、これでお互いがパートナーになった。
そしてそれを持ったままハワイへ飛び、やっとホテルへ着いた。
ワイキキビーチの見えるホテルだ。
「あー疲れたー」
「今日は夕方保健局へ行く予定だけど大丈夫か?」
そう。兄さんはお義姉さんと買い物に出かけて、両親は両親でのんびり過ごすらしいけど、立樹の両親と弟さんは3人で買い物へ行くらしい。
着いたばかりなのにみんな元気だよな、と思う。俺はもうヘトヘトなのに。
「飛行機で眠れなかったから疲れたんだろ」
「だって、パートナーシップ宣誓をしたんだよ? で、ハワイ着いたらリーガルウエディングで翌日は結婚式だよ? 興奮で寝られるはずないじゃん。立樹はなんだか落ち着いてるけど」
そう、俺が興奮と緊張の中で感情がぐるぐるしているのに、立樹は落ち着いていた。
「落ち着いてるわけじゃないよ。俺だって緊張してるけど」
そう言うけれど、とても緊張してるようには見えない。もっとも立樹はもともと落ち着いて見えるタイプだけど。
「保健局に行くまで少し寝てな」
「何気にキツいスケジュール組んじゃったよな」
「明日、結婚式なんだから仕方ないだろ」
「うん。式を明後日にすれば良かった」
「緊張するものは早く済ませるって言ったの悠だからな」
「わかってるよー。時差もあるのに、それを考えなかった俺が馬鹿でした」
そう。リーガルウエディングを今日にして、結婚式を明日にしようと言ったのは俺だ。
早めに終わらせないと緊張したままの時間が長くなって精神的に疲れるだろうと思ったのだ。
立樹はリーガルウエディングを明日にして、今日はのんびりしようと言っていたんだった。
いや、日本でパートナーシップ宣誓をしてハワイへ来てマリッジサーティフィケートを貰うために保健局で面談というリーガルウエディングをする。
日本の戸籍上なにも変わらないけれど、これで結婚をしたという実感がわくのではと思っていたけれど、ほんとに結婚するんだという気持ちになった。
「結婚するのって体力勝負なんだね。明日も昼から夕方まで予定びっしりだし」
そう、明日は結婚式の後にウエディングフォトを撮るのでサンセットの時間まで予定がびっしりだ。
「まぁ、でも夕食は少し贅沢するんだから、それを励みに頑張ろう」
「ちょっといいレストランでステーキでしょ。よく9人で予約取れたよね」
「早めに予約したからな」
「うぅ、それまでの辛抱か。明後日はなにもしないでのんびりする」
「そうだな。俺も明後日はゆっくりしたいかも」
ハワイは過去何回か来たことがあるから観光はいらない。その分ゆっくりできる。
「よし!じゃあ1時間くらい仮眠する。立樹は?」
「俺は大丈夫」
「じゃあ時間になったら起こして。遅めのランチ食べてから保健局行こう」
「わかった。起こすよ」
立樹に起こして貰う約束をして、俺は眠りの中へ旅立った。
昨日は保健局での簡単な面談で、結婚の意思のあることなどを訊かれそれに対してほぼイエスと答えるだけでマリッジライセンスを貰えた。
それを先ほどスタッフさんに渡したので、これで後日マリッジサーティフィケートが発行され、俺たちはハワイにおいてはふうふとして認められる。
そして今日は結婚式だ。
「悠、支度できた?」
「できたよ」
ドアの外から立樹の声が聞こえてきたので、ドアを開ける。
そこにはネイビーブルーのショートフロックコートを着た立樹がいた。
立樹は前の唯奈さんとの結婚式でもフロックコートを着ているが、立樹のシャープな顔立ちには丸みのあるモーニングコートよりもフロックコートの方が似合うので、このショートフロックコートを選んだ経緯がある。
そして俺はエクリュホワイトの柔らかい白いタキシードだ。
「うん。試着のときも思ったけど、やっぱり悠には白が良く似合うな。可愛い」
「そう? ありがとう。立樹も格好良いよ」
「ありがとう」
お互いにお互いの姿に見蕩れていると、ドアがノックされる。
「式場に移動します」
今、俺たちはサロンにいてこの後結婚式を挙げる式場へと移動する。
サロンを出ると、リムジンが止まっている。リムジンなんて見たことだって数回しかないのに、そのリムジンに乗って移動するなんて緊張する。いや、車に乗るだけなんだけど。
そうでなくても結婚式前で緊張しているのにリムジンで緊張してる俺と隣で平然としている立樹ではすごい差がある。
「緊張しないの?」
「んー。全く緊張しないわけじゃないけど、さほど緊張してないかな」
「なんで? 2回目だから?」
「どうなんだろう。まぁ、関係なくはないだろうけど」
立樹はいつもどっしりとしている。あたふたするのはいつも俺だけだ。なんだかちょっと面白くないけれど、2人であたふたするよりも立樹が落ち着いてくれている方がいいかもしれない。
立樹がいつも落ち着いていてくれてるから、俺はいつも立樹に甘えてばかりだ。
「今日の式は家族しかいないから緊張しなくていいと思うよ」
「でも、人前でキスするんだよ? 家族の前だからこそ恥ずかしいというか」
「ディープキスするわけじゃないから」
「当たり前だろ。そんなのしたら失神しちゃうよ」
「そうなの? 試してみる?」
「やめて! 絶対にやめて!」
いたずらっ子のようにニッと笑う立樹に俺は本気で慌てて、顔の前で手を振った。
立樹はそれを見て笑っている。
「少しは緊張ほぐれた?」
「え?」
「ちょっとは緊張ほぐれたんじゃない?」
そう言われて初めて、俺の緊張をほぐすために立樹が言ったんだとわかる。
「うん……少しほぐれたかも」
「俺がいるから大丈夫だよ」
「うん」
俺はほんと情けないほどに立樹に甘えているけれど、立樹はそれが嬉しいみたいなので堂々と甘えている。
「もうみんな着いたのかな?」
「着いてるんじゃないか?」
「そう言えばみんなアロハシャツとムームー着るって言ってたけど、うちの父さんと母さんはどうしたんだろう。昨日はゆっくりするって言ってたけど」
「ワイキキ内にあるデパートで買ったのかもよ」
「あ、そっか。それに兄さん夫婦が買い物行ってるしな。お義姉さんと母さんはムームー着れるってなんか喜んでたな」
「うちの母さんなんかアクセサリーまで買うって言ってたな」
「なんか俺たちより力入れてる気がする」
「でも、それでいいんじゃないか。みんなが楽しんでくれる式にした方がいいよ」
「そっか。そうかもしれないな」
そんなことを話しているうちに車は式場に着いた。
式場となるガーデンには既に両家族が揃って椅子に座っていた。
そして牧師さんは海を背に優しい笑みを浮かべて俺たちを待っている。
俺が女性なら父親と後から行くんだろうが、俺たちは男同士だ。だから、2人で手を繋いで牧師さんの前まで歩く。そこまで行って俺は緊張がピークに達した。
『立樹。あなたはここにいる悠を病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も妻として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?』
『誓います』
『悠。あなたはここにいる立樹を病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も妻として愛し敬い慈しむ事を誓いますか?』
「え?! えっと」
イエスと答えるだけでいいのに、緊張でそれさえわからなくなってしまった。
牧師さんは微笑みながら俺の返事を待っている。
「悠、イエスだよ」
「あ! い、イエス」
俺がやっとイエスと言うと牧師さんははホッとした顔をして式を続ける。
日本で買ってきた指輪を交換し、誓いのキスになったとき俺はカチンカチンに固まってしまった。
確かにディープキスじゃないにしたって、人前で、しかも親の前でキスをするなんて無茶だ。
だけど、立樹の顔はどんどん近づいてくる。
「悠、目閉じて」
立樹が小さな声で言う。
緊張のあまり目を開けたままだった。
立樹に言われて、今度はぎゅっと目を閉じる。それに立樹が小さく笑った気がするけれど、よくわからない。
立樹の唇はほんの一瞬、軽く触れたかと思うとすぐに離れていった。それで安心して目を開けると立樹が笑っている。
それを見て少し緊張がほぐれてきた。小さく息を吐くと花びらが降ってくる。フラワーシャワーだ。
これで式は終わり。そう思うと完全に緊張がほぐれ、俺はその場にヘナヘナとしゃがみ込んでしまった。
「悠、大丈夫? ほら、手」
立樹は甘い笑みを浮かべて俺に手を差し伸べてくれる。その手に捕まってやっと立ち上がる。もう、俺、恥ずかしすぎる。
と、そこで兄さんにカメラマン役を頼んであったことを思い出し、兄さんの方を見るとファインダーを覗きながら笑っていた。
写真に撮られた! そう思うと格好悪すぎてガクリとしてしまう。これって人前でキスをするより恥ずかしい。
そして式が終わるとウエディングフォトの撮影に移る。
参列した家族はこれで帰って行き、俺と立樹は背後の教会へと行き写真を撮っていく。
教会の中は白亜で床の赤いカーペットが映える。教会ウエディングも良かったのかな、なんて思ってしまうくらい綺麗な教会だった。
写真を撮るのも緊張しないわけではないけれど、いるのは俺たちとカメラマン、スタッフさん2人だし、さっき脱力しきった後だからか比較的落ち着いてポーズを取ることができた。
教会内部、教会入り口、そして先ほど式を挙げた庭園にあるシンボルツリーでの撮影と続いた。そして車でビーチに行くとちょうどサンセットの始まりだった。
ビーチはあまり海水浴客のいない静かなビーチだったので、あまり人に見られることもなく淡々と進められ、最後の一枚を撮り終わった後には大きく息を吐いてしまった。
「お疲れさまでした。サロンへ戻りましょう」
スタッフさんに誘導されて行きと同じリムジンでサロンに戻ると疲れが一気に出てきた。
「さすがに疲れたね」
「ほんとに。もうなにもしたくない」
「でも、夜はみんなでステーキだよ」
「行くまで少し部屋で休める?」
「んー少しなら大丈夫じゃないかな? 遅めの時間にしておいたから」
「良かった」
「じゃ、帰ろう」
「うん!」
そう言って差し出される立樹の手に手を重ねた。
結婚式を終えた夜、両家族が集まってステーキ店で夕食とした。
ハワイでの結婚式は成功だったようで、お義姉さんはもう一度結婚式をしたい! とまで言って兄さんが慌てていた。
どうもハワイでの結婚式は特に女性に人気だったようで母さんも、立樹のお義母さんもハワイでのガーデンウエディングを気に入ったようだ。
最初はぎこちなかった両家族だったけど、食事とともにお酒が入ると女性3人は楽しそうにしていた。これで仲良くなればいいな。親戚になったのだから。
そんな風に楽しく食事をしたけれどさすがに疲れていて、早めに解散となった。
まぁ、俺と立樹は疲れてるから帰るけど、みんなで2次会をするんじゃないか? それくらいぎこちなさがなくなってきていた。
「今日はお疲れさま。明日はゆっくりしなさい」
「母さん。今日はありがとう」
「いいお式だったわね」
「そう? なら良かった」
「あんた達昨日から忙しくしてるから、私たちのことは気にしないで早くホテル帰って休みなさい」
「うん。そうさせて貰う」
「写真は|優《すぐる》が撮ってたから日本に帰ったら現像して貰いなさい」
「うん」
「立樹さんもお疲れさま」
「いえ。式に出て頂いてありがとうございます」
「息子の結婚式ですもの、出席するに決まってるわ。あら、みんな行っちゃうわ。じゃあね、おやすみなさい」
ほんとに2次会に行きそうなノリでみんな帰って行く。
「じゃあ俺たちも帰ろうか」
そう言うと立樹は俺の手を握ってきた。
「いいだろ。ハワイは同性婚を認めてるし、もう夜だしさ」
そうだ。日本と違ってハワイは同性婚は合法なんだ。たくさんのゲイが結婚している。そう思うと手を繋いでもいいかな、と思う。夜で暗いのもあるし。
そう思って立樹の手をぎゅっと握り返す。そのことに立樹は軽く目を見開いてから甘い笑みを浮かべた。
そうか。俺が恥ずかしがらないでこうすれば立樹は喜ぶんだな。日本に帰っても手繋ぎは無理にしてももっと堂々と隣に立つようにしよう。立樹に喜んで欲しい。
「ちょっとビーチに寄って帰ろうか」
「そうだね」
夜の海は真っ暗で少し怖いけれど、ワイキキのネオンで少しは明るいし何より立樹がいる。だから怖くはない。
浜辺に手を繋いで座って少し話しをする。
「悠。日本帰ったらさ、ほんとに2人で住む家買おう。俺、一生悠と離れる気ないから」
「俺も離れる気ないよ。そうだね。ゆっくり探していこうか。新築? 中古?」
「新築。と言いたいところだけど高いんだよな。だから中古でもいい?」
「もちろん。どっちだって俺たちの家になることに変わりはないじゃん」
「そうだな。まぁ気に入る物件ならどっちでもいいか」
「うん。それに男2人の給料だから少しくらい高くても払えると思うよ」
「確かにそうだな。悠、愛してるよ」
家の話しをしていたのに急に愛を囁かれて慌ててしまう。
「なんだよ、急に」
「んー言いたくなった。で、悠は?」
「そんなの結婚式挙げたんだからわかるでしょ」
「でも、言葉にして」
ふざけているのかと思って立樹の顔をよく見ると、真剣な顔をしているので、ほんとに言葉にして聞きたいみたいだ。
俺にしてみたら結婚したんだからわかるだろ、と言いたいけれど。でも、たまには言ってみようか。
「俺も愛してるよ」
こんな愛の言葉を口にするなんて恥ずかしくて、つい下を向いてしまう。
すると、顎をあげられ、あっと思っているうちにキスをされた。
「ごちそうさま」
そう言った立樹はニヤリと笑っている。
「もう!」
「ほら、帰ろう」
立樹は立ち上がり、俺の手を引く。俺はその手を離さず、ぎゅっと握る。この手はいつまでも離さない。
END
◇オマケ◇
パートナーシップ宣誓から2年後。
俺たちは2人で住む家を内覧しに来た。
一緒に住んで3年。
パートナーシップ宣誓をして結婚式を挙げてから2年。
一緒に住み始めた頃から立樹が言っていた2人で住む家だ。
2人でローンを組むため、区内で分譲マンションと難しいことを言っていたら2年たってやっと低層レジデンスが建設された。
そのチラシを見た立樹はすぐに不動産会社に電話をし、モデルルームの内覧を申し込んだ。
そして今日がその内覧日だ。
相変わらず俺は2人で内覧するのは恥ずかしいけれど、2人で住む家だから立樹だけに任せる訳にもいかないので一緒に内覧に来た。
「ここのベランダ広くていいね。ハワイのラナイみたいに椅子を置けるよ。中庭が見えるからくつろげる」
「それいいな。キッチンもアイランドキッチンで開放的だし、いいな」
ここは低層レジデンスだ。
最初は中古の高層レジデンスが頭にあったけれど、実際に見てみると、マンションというよりは邸宅という言葉がぴったりくるレジデンスの広告を見てからここが気になったのだ。
ベランダが広いから洗濯物をゆったり干せるし、椅子を置いてくつろぐこともできる。
リビングダイニングも広くて、床暖房もきいているから冬も寒くない。
そして立樹が喜んだのは広々としたキッチンだ。
相変わらず俺は料理が苦手で、立樹が残業で遅くなるときは俺が作るけれど、基本的に料理は立樹がしている。
だから家を見るとなると当然立樹はキッチンをチェックする。俺はどんなキッチンでも構わないので、パッと見て終わりだ。
そして立樹が気に入ったキッチンの隣はパウダールームになっていて、キッチンとはドアで繋がっていてなにかと便利そうだ。
そして部屋は2部屋だけれど、寝室ばりに広いサービスルームが一部屋あるので、そこを書斎として使うこともできる。
「駅からそんなに遠くないし、スーパーやコンビニも近いから生活するのには便利そう」
「セキュリティもしっかりしてるし」
「いいかもしれないね」
「いいな。ここにするか」
「そうだね」
「よし! ここにしよう」
外観がどっしりしていて、そこに一目惚れをした。
そして、広々とした室内を事細かに見て、ここに住んでみたいと2人とも思えた。
そんな風に思える家はそうそうないだろうということで家を探しだしてからわずか2年で理想の家と出会えた。
今、ゲイの俺が考えたこともない未来にいる。
男同士だから一緒に住めれば十分。そう思っていた。だけど、ノンケの立樹は男女のカップルと近いことをと考えてくれて、2人の家まで買う今がある。
「立樹。ありがとうね」
「なにが?」
「ん? 今、すっごく幸せだから」
「なら良かった。俺が一番に考えるのは悠の幸せだから」
そう言って笑う立樹は出会った頃より凜々しくなって、格好良さが増した。
俺は日々、好きを更新している。
「立樹、好きだよ」
「俺も好きだよ」
そう笑いあえる毎日が今は愛しい。
END

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