これが日本の居酒屋02

「今日はどこ行ったの?」
「今日は人力車乗って、それからスカイツリー行った。ほんとに高いね。遠くまでよく見えたよ」
「楽しかった? 俺はどっちも未体験だ」
「そうなの? じゃあ今度は一緒に体験しよう。人力車って面白かった。写真も撮って貰ったし。スカイツリーもいいよ。高所恐怖症でなければだけど」
「それは大丈夫。でも、1人でも楽しめてたなら良かった」

 昼間1人にして寂しいんじゃないかと思っていたから、そこはホッとした。昨日と違って今日はきちんと食べたみたいだし。

「それなりには楽しんだけど、明日海がいたらもっと楽しかったと思う。でも、用事があったんだろ?」
「うん。明日までの課題があるの忘れてて。夜はなんとかしたくて、家帰ってから必死で終わらせた」
「そうか。学校の課題なら仕方ないね。俺も記憶があるよ」

 良かった。わかって貰えて。イジュンのことだからわかって貰えるだろうとは思っていたけれど、それでも今日の約束を蹴ったのは事実だから。
 そんなふうに今日のことを話していたら、トマトサワーが運ばれてきた。画像で見た通り、真っ赤だ。

「ほんとにトマトジュースの色だね」
「うん。乾杯しよう。韓国語で乾杯ってなんていうの?」
「韓国語ではコンベ。」
「じゃあ。コンベー」

 グラスをチャンと合わせて乾杯をする。一口飲むと、ほんとに濃厚なトマトジュースの味がした。そしてイジュンの方を見ると、不思議そうな顔をしていた。

「なに不思議そうな顔してるの?」
「日本では、これがトマトジュースの味?」
「そうだよ」
「としたら、韓国のトマトジュースとは少し味が違うんだね」
「味が違う?」
「うん。もっと甘くて、こんなにドロっとはしてない。スッキリって感じ」
「へー。トマトジュースなんて、どこでも同じ味だと思ってた」
「うん、俺も」
「でも、こっちの方がトマトっていう感じがする」

 まさかトマトジュースが国によって味が違うとは思わなかった。でも、もっと甘くて、ドロッとしてないなら日本のトマトジュースが苦手な人でも飲めるんじゃないかと思った。俺は日本のトマトジュースも普通に飲むけど、韓国のスッキリしてるっていうトマトジュースを飲んでみたいと思う。
 そんなふうにトマトジュース談義をしていると、料理が運ばれてきた。

「これはなに?」

 イジュンが唐揚げを指指して言う。

「唐揚げ」
「カラアゲ!カラアゲは日本語だったんだ!」
「え? 韓国でも唐揚げっていうの?」
「うん。韓国語ではないよなと思ってたら日本語だったとは。これは日本ではメジャーな食べ物?」
「うん。メジャーだし、嫌いな人いないんじゃないかな? 子供も唐揚げ好きだし、大人も好きだよ」
「そうなのか。カラアゲは日本食だったのか」
「知らなかった?」
「うん。お弁当屋さんのおかずでカラアゲがあるんだ。だから韓国の食べ物だと思ってた。思ったより日本食は韓国に根付いてるみたいだね」

 韓国に行ったことのない俺にはわからないけれど、韓国で食べられている日本食を聞いて面白いと思った。その食べられているものが、日本の高級食ではなく、日本では日常的に食べているものだから面白い。多分、最初は日本の会社が進出して広まったんじゃないかな。それをイジュンに言うと、

「俺が知ってる日食のお店の料理人は日本で働いたことがあるって言ってた。だから噂では日本の味に近いって言われてるけど」
「そうなんだ。食べてみたい」
「じゃあ明日海が来たときは行かなきゃだね」
「うん。食べ物と言えば、日本で他に食べたいのはないの?」
「うどん、とんかつ、寿司は絶対。あと、肉じゃがを食べたいんだけど、どこで食べられる?」
「肉じゃがは、家庭料理だからな。家では母さんが作ってくれるけど、外でってどうなんだろう? 町の定食屋さんにでも行けば食べられるのかな? ちょっとわかんないや」
「家庭料理なの?」
「うん。なんでそんなの知ってるの?」
「さっき言った日食のお店にあるメニューなんだ。食べたかったな」

 そう言ってシュンとするイジュンを見ると、なんとかしてやりたいとは思うけれど、料理がほぼできない俺には無理なことだった。今度、定食屋の前を通ったらメニューを見てみよう。でも、思ったより韓国では日本料理が食べられているみたいだ。韓国ではどんな味がするのか、ちょっと興味がわいた。

「イジュンは日食のお店、結構行くの?」
「そうだね。結構行ってる方だと思うよ。寿司は数ヶ月に1回だけど。韓国では高いんだ」
「高いって回らないお寿司屋?」
「いや、回転寿司もだよ。それでも結構いい値段するんだよね。日本でも高い?」
「回転寿司で高いって思ったことないな」
「じゃあやっぱり行かなきゃだ」
「回転寿司でいいの?」
「回らない寿司屋が安いならそれがいいけど」
「回らないとこは高いよ」
「やっぱりそうだよね。じゃあ回るところだ」

 イジュンはちょっと残念そうにそう言った。そしてお腹が空いているのか料理をどんどん胃におさめていってる。そして唐揚げを食べて少しなにかを考えているようだ。口に合わなかったのだろうか。韓国の方が美味しいとか?

「やっぱり揚げ物は日本の方が美味しいみたいだ。お弁当屋さんのも特に油っこいと思ったことはなかったけど、なんだろう。なにかが違うんだ。で、日本の方が美味しい」
「油の話しじゃなくて?」
「うん。違うと思う」

 へえ。油云々でなく、か。そういえば某チキンチェーン店は、同じレシピで作っているはずなのに、お店によって味が微妙に違うということを思い出した。そんな問題なのかもしれない。

「でも、そんなに日本食食べられるなら韓国で住んでも問題なさそうだね」
「かもしれない。たまに韓国料理を挟む感じなら日本食も飽きずに食べられる。ところで明日海。お腹が空いてるから、もっと食べたいんだけど」
「いいよ。なにが食べたい?」
「と訊かれても日本語読めないし、なにがあるかわからないから、おまかせしてもいい?」
「わかった。じゃあ適当に頼むね」

 そういって、焼き鳥、ポテトフライ、ポテトサラダ、おでんを注文した。好き嫌いがないというから、気にしなくていいのは楽だ。
 
「なにが出てくるんだろう。楽しみだ」
「明日はどこ行くの?」
「今日スカイツリーに行ったから、今度は東京タワーかな」
「俺、一緒に行った方がいい?」
「もちろん! 明日海が時間あるならぜひ!」

 俺が行った方がいいか訊くとイジュンは嬉しそうに笑った。まぁ、道案内くらいはできるかな? って、東京タワーなんて子供の頃行っただけだから、行き方知らないや。そう思ってスマホで検索する。イジュンが泊まっているのは上野だから、浜松町まで行って、そこからバスかな?

「明日はJRとバスで行こう」

 どこで待ち合わせしたらいいかな? と思ったところでポテトフライとポテトサラダが運ばれてきたので、食べながら話す。

「午前中はどこに行くの?」
「浅草!」
「また浅草行くの?」
「浅草神社っていうところにまだ行ってないんだ。神社って悪いところじゃないよね?」
「神社が悪い?」
「ほら、日本の政治家が参拝したりして、問題になるところ。浅草神社もそんなところなの?」

 ああ靖国神社か。日韓で問題になるから、韓国人のイジュンにとっては良くないところっていうイメージがあるのか。靖国神社だって、韓国人は知らないから反発しているだけだと俺は思っている。

「全然悪いところじゃないよ。というか神社自体悪いところじゃない。神様を祀っているところだから」
「そうなの? 日本の神様は韓国人には悪いとかない?」

 イジュンの発想に俺は笑ってしまった。韓国人に悪いなら、それもう神様じゃないから。そう言うとイジュンは眉を垂らした。まぁ、靖国神社問題があるからそう思ってしまうんだろうな。でも、それを説明すると長くなるから、今は割愛する。

「悪いところじゃなくて、神様がいるなら行きたい」

 神社か。1人で行かせてもいいけど、参拝の仕方もなにもわからないだろうし、そうしたら俺が一緒に行った方がいいかな。

「昼過ぎまで待てるなら、浅草神社も俺が案内するよ。東京タワーは夜になってもいいだろう? 夜景見れるから」
「浅草神社も明日海が案内してくれるの? そしたらそれまではここの市場でも見てるよ」
「そっか。じゃあ浅草待ち合わせにするか?」
「うん」

 と言って明日の待ち合わせを決めたところでおでんと焼き鳥が運ばれてきた。

「タッコチだ! 赤くない! こっちは? おでん?」
「焼き鳥と、こっちはおでん。おでんは韓国のと日本のは違うって聞いたことがあるから頼んでみた。で、なに? タッコチ? それって焼き鳥のこと?」
「そう焼き鳥。韓国では屋台のタッコチって言ったらコチュジャンで赤いんだ。でも、きちんとした焼き鳥もあるよ。日本式焼き鳥屋もあるし、韓国のチェーン店もある。大学の近くにローカルな焼き鳥屋があった」
「そうなんだ。食べてみて」

 俺がそう言うと、イジュンは「いただきます」と言って鶏皮を食べた。

「もちもち弾力があって美味しい。これはなに?」
「鶏皮だよ。韓国では食べない?」
「日本式の居酒屋ではわからないけど、韓国ではあまり……。最近人気が出てきたっていうけど、初めて食べた」
「どう?」
「美味しい! なんでこんな美味しいものを韓国ではあまり食べないんだろう。もったいない」
「気に入ってくれたのなら良かったよ」
「でも、焼き鳥美味しいね」

 そう言いながら、もも、つくね、せせりとあっという間に食べていく。気がついたら3串しか残っていなかった。それにハタと気づいたイジュンは青くなり、俺は笑った。

「ごめん、食べ過ぎた」

 イジュンはそう謝ってくるけど、謝る必要なんてないのに。イジュンに食べて欲しくて頼んだわけだし、食べたかったら追加で注文すればいいだけの話しだ。青くなる必要なんてない。

「気にしないでいいよ。イジュンに食べて欲しいんだからさ」
「明日海……。じゃあ残りも頂いてもいい?」
「もちろん」

 俺が笑顔でそういうと、イジュンは笑顔で残りの焼き鳥を食べた。美味しく食べて貰えたのなら、それで十分なんだ。
 そして残ったおでん。俺にとっては何の変哲もないいつものおでんだけど、イジュンは別の意味で固まってる。

「俺の知ってるおでんとは違うみたいだ。これは大根、だよね?」
「うん。食べてみ。美味しいから」

 俺が勧めると、イジュンは大根を一口食べ、そして目をキラキラとさせる。

「美味しい! なにこれ、すっごい味が染みてる。これだけでご飯一杯は軽く食べれるね」

 そうして次のものにイジュンは不思議そうな顔をしている。

「これ、なんだろう? ゴム? え、そんなことないよね。不思議な食感だけど美味しい」
「韓国ではこんにゃくって食べないの? 芋から出来てる」
「芋? なんで芋からこうなるの? ダイエット食として売られているのは見たことあるけど、食べるのは初めて。でも、すごい味が染みてる」

 こんにゃくのカロリーを考えたら確かにダイエット食というのも頷けるけど、まさかおでんに入れないとは思わなかった。次にイジュンはちくわぶを口に入れる。

「なに、これ? パン? ごはん? もち? なんだか不思議な食感」
「それはちくわぶだよ。美味しいだろ? 小麦粉なんだよ」
「え? 小麦粉? パンかごはんかもちだと思った。面白いのが入ってるね」
「そう? ちくわぶが入ってないなんておでんじゃないよ。たまにちくわぶ入ってなかったりするけど、それは邪道だね」
「明日海は好きなの?」
「もちろん! 食感がたまらなく好き。味が染みこんでると最高に美味しい」
「うん、確かに美味しいかも。癖になりそう。でも、日本のおでんは色々入ってるんだね。韓国のおでんは練り物が入ってるだけだよ」
「え? そうなの?」
「いいなぁ日本人は。いつもこんなに美味しいおでんを食べられるんだ」
「おでんなんてコンビニでも食べられるよ」
「え? コンビニでおでん? そうだ! 日本のコンビニ行かなきゃだ」
「なんで?」
「日本のコンビニはマートみたいだって聞いたんだ。なんでもあるって」
「そうなの? じゃああとで行ってみる?」
「行く行く!」

 そういうイジュンの声はとても弾んでいた。おでんの具材が多いのも、コンビニで売ってるのも当たり前だと思ってたけど、違うんだな。韓国にだってコンビニはあるんだから同じだとばかり思ってた。それに、マートみたいというのも引っかかった。マートってスーパーだよな? コンビニってそんなだっけ? それとも、そう感じてしまうくらいに韓国のコンビニは品揃えが悪いとか? 韓国に行ったことのない俺にはわからない。でも、お隣の国とはいえ、色々な面で違うんだと気づけたのは楽しかった。

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