現代の伝説 01
真夏は本当に鬼がいるのかと、再度鬼について調べた。 銀髪の人は自分のことを鬼だと言っていた。けれど本当に鬼だなんているのかと振り出しに戻って、再度図書館へと足を運んだ。 図書館の静かな書庫の奥、一冊の古い民俗誌。真夏はそれを手に取った瞬間…
香戀歌〜千年の時を越えて〜
現代の伝説 02
茶屋を辞して外に出ると、空はいつの間にか淡く暮れ始めていた。山の端に太陽が沈みかけ、木々の影が長く伸びている。真夏はゆるやかな下り坂を宿へと歩き始めたが、その足取りはおぼつかなかった。心が追いついていなかった。(銀の髪に、赤い瞳、笛を吹く…
香戀歌〜千年の時を越えて〜
貴方を思い出した 01
夢の中。風ひとつない静かな山。聞こえるのは、真夏が足元の落ち葉を踏む音だけだった。周囲は深い霧に包まれていて、少し離れたところさえ霞んで見える。 今、真夏がいるのは、大きな岩のすぐ傍だった。そして、目の前には銀色の髪の人――博嗣だけだった…
香戀歌〜千年の時を越えて〜
貴方を思い出した 02
その日も真夏は夢の中にいた。夢の中で博嗣はいつもの岩の腰掛けて、龍笛を吹いていた。そして、元服前の真夏ー霞若ーは離れたところからその姿を見て、急いでかけて行く。「博嗣さま」 霞若がそう声をかけると博嗣は笛を吹くのを止め、霞若に目をやった。…
香戀歌〜千年の時を越えて〜
全てを知って 01
真夏は朝の光に包まれながら、キャリーケースを引いて家を出た。アスファルトがまだ熱を帯びていない時間帯。静かな住宅街の空に、蝉の声が遠く微かに響いている。 数日前に兼親と会った、あのカフェでの朝をふと思い出す。「いってらっしゃい」兼親はそれ…
香戀歌〜千年の時を越えて〜
全てを知って 02
歩こうと立ち上がったけれど、しばらくの間立ったまま動けずにいた。 胸の奥に残る痛みは、矢に射られたときの痛みだけではない気がした。そこで、ふと気配のように心をかすめた感情があった。 今の自分には”戻る場所”がある。迎えてくれる人がいる。決…
香戀歌〜千年の時を越えて〜
選んだ未来 01
山の空気は午後になってもどこか冷たい。雲の切れ間から零れる陽の光が、木々の葉を透かして地面に揺れ落ちていた。 祠は想像よりもずっと小さく、静かにそこにあった。木と石で出来た簡素な造り。だけど、その静けさはどこか凜としていて、訪れた者の心を…
香戀歌〜千年の時を越えて〜
選んだ未来 02
足元の土がわずかに沈む感覚とともに、真夏は一歩結界の内側へと足を踏み入れた。 空気が変わった静寂の中に、音にならない気配が満ちている。夕暮れにも似た光が、山の輪郭を染め、木々の葉が鈍く光を反射している。時間がずれたような感覚。ここは現実と…
香戀歌〜千年の時を越えて〜
終章
夜の気配が部屋をゆっくりと満たしていた。窓の外には木々の影が揺れている。街灯も遠く、ここは人の喧噪とは無縁の場所だ。 真夏はふと目を覚ました。静かすぎる夜だった。けれど、耳を澄ますとどこかで笛の音がしている。薄く、けれど確かに。あの頃と同…
香戀歌〜千年の時を越えて〜