EHEU ANELA

愛のない婚約者は愛のある番になれますか?

新婚旅行らしくない新婚旅行2

翌日、朝起きると陸さんがキッチンでキウイを手にしていた。


「僕、剥きます」
「これくらい自分でもできる」

陸さん、包丁は使えるんだろうか? 自宅に住んでいたし、自宅にはお手伝いさんがいて作って貰っていたはずだ。


「でも、僕ができるときは僕がやります。いえ、やらせてください」

そう言って頭を下げると包丁を渡してくれたので皮を剥いていく。キウイの皮は柔らかいから剥くのはさして大変でもない。でも、小さいから気を付けないと手を切ってしまいそうになるんだ。陸さんの手を傷つけたくないからできる限り僕がやりたい。帰国してもやらせてくれるかな?


「ありがとう」

陸さんは、切り終わったキウイとシリアルと一緒にラナイに持って行った。コーヒーでも淹れてあげようと思い、コーヒーメーカーをセットする。

 
「コーヒー淹れるので待っててください」
「ああ」
 

陸さんはあまり僕と話したくなさそうだけど、挨拶とありがとうという感謝の言葉はきちんと口にしてくれる。これが話したくないからと言ってなにも言わずに黙ってられたらちょっと嫌だけど、陸さんはこれはない。だから年に1回のお正月の挨拶で顔を合わせたときも、最低限の言葉だけは交わしていた。もっともそれもなく黙っていたらゆきな伯母様が怒りそうだけど。だから僕は顔を合わせて嫌な気になったことは一度もなかったし、それどころか好感を持っていた。

コーヒーメーカーをセットした後は自分の朝食だ。今日は何にするか決めてある。簡単に済ませたいけれど、美味しいのが食べたくて昨日チーズとハム、卵を買ってきてあるからパンで挟んでクロックムッシュにする。それにサラダをつけて、キウイとヨーグルトをそえれば十分だ。

パンをフライパンで焼き、それを見ながら自分用にキウイの皮を剥いていく。これでOK。

パンが焼けた頃にはコーヒーも落ちているので、コーヒーを淹れてラナイにいる陸さんのところに持って行く。


「コーヒーはいりました」
「ありがとう」

ラナイは陸さんがいるので、僕はダイニングで食べることにする。

朝食を食べながら今日の予定を頭の中で組み立てて行く。

今日は和食の食材と調味料を買いたいので日系スーパーに行きたい。バスで行くとなるとワイキキかアラモアナになるけれど、食材以外にも色々見て回りたいからアラモアナに行くことに決めた。もし荷物が多くなりすぎたらタクシーで帰ってこよう。ちょっと高くなるけど、それくらいいいよね?

僕がそんな風に考えていると陸さんが席を立つ。食べ終わったのだろう。


「後で一緒に洗うので置いておいてください」
「わかった。ありがとう。今日は夕食はいらない」

それだけ言うと陸さんは車の鍵を持って出ていった。陸さんは僕と違って車の運転ができる。そして、ゆきな伯母様から陸さんはサーフィンをすると聞いている。だからきっと今日もこれからサーフィンに行くのだろう。

この辺でサーフィンをするならダイヤモンドヘッドだろうか。そこなら車ですぐそこだ。

でも、サーフィンをするけれど陸さんは色が白い。だからサーフィンをするようには見えないのだ。色白なのはゆきな伯母様似で、多分黒くなることはないんだろう。子供の頃から今まで、日に焼けた陸さんというのは見たことがないから。

それよりも陸さんは今夜は食事はいらないと言うので僕1人ということになる。1人ならば食べに出てもいいけれど、一度帰って来てしまったらまた出かけるのが面倒になるので何かお弁当か惣菜でも買ってこよう。1人分作るのは面倒だ。となると食材は買わなくてもいいかな。調味料と明日の朝のフルーツだけ買えば良さそうだ。

今日の予定も決まったのでコーヒーをゆっくり飲んだら出かけることにした。


ハワイ滞在最終日。僕は相変わらず本を読むけれど、お土産も買わなきゃいけないし自分でも欲しいものを買おうと思っているから今日は買い物メインになるかもしれない。

夕食はどうするんだろう。ハワイに来てから一緒に夕食を食べたのは結局1回だけだ。それもコンドミニアムで。ほんとは一緒に食べに行きたいけれど、そんな贅沢を言ったらいけないよね。

陸さんが一緒に食べないならフードコートでテイクアウトしてこよう。荷物をパッキングしなきゃいけないから作るのはできるだけ避けたい。

陸さんは朝食を食べてからラナイで木々を眺めて休んでいたけれど、少しすると車の鍵を持って出て行く。夕食のことはなにも言ってなかったからまた一緒には食べられないんだな。そうだよね、最初にそう言われたもんね。陸さんが食べないのならテイクアウトしてこよう。

今日の買い物はどこへ行こう。手近なカハラで済ませるかアラモアナに出かけるか。そう考えてアラモアナに行くことに決めた。理由はワードビレッジにも歩いて行けるから。

アラモアナだけでもショッピングは十分だし、お土産を買うにも十分だと思う。でも、ワードビレッジはローカルなお店があるから、アラモアナではなかなか見れないものがあるから見ているだけで楽しいのだ。お土産にしてもいいし。だから行っておきたいなと思う。

でもお土産は何を買おう。昭典伯父様ーもうお義父さんだけどーにはお酒がいいかもしれない。それもハワイのお酒。だとしたらスーパーが最適だ。あまりお酒を飲まないお父さんにはネクタイとか? 問題はお母さんやゆきな伯母様ーもうお義母さんーだ。女性のものって何を買ったらいいのかわからない。アクセサリー? それとも美容系? 若かったらハワイアンジュエリーもいいけれど、そこそこの年齢で既に結婚して大きな子供もいることを考えるとハワイアンジュエリーは若い気がしてしまう。だとしたら美容系とコーヒーやお菓子でいいかなと思ってしまう。お土産って難しい。

お土産を買うのはやっぱりアラモアナでいいな。お酒を買うならスーパーがいいし、お菓子も売ってる。美容系だってデパートで買える。

あ、陸さんの運転手の寺岡さんにも買って行かなきゃ。毎日陸さんの送迎をしてくれるのだから。これからはそう言ったことも気を配らなくちゃいけないんだな。

ある程度買うものが決まったので出かけよう。


結構買ってしまった。お母さんとゆきなお義母さんにはハワイアンジュエリーでも若作りでない素敵なピアスがあったのでそれを購入し、それにフェイスマスクを買った。2人とも若く見えるけど、いつまでも若くいて欲しいから。

そして昭典お義父さんには予定通りお酒。なんだけど、ラム酒よりも地ビールがいいかなと思ったので帰りにワイキキに寄ることにした。そしてそれだけと言うわけにはいかないからカフスボタンを。お父さんはおしゃれなネクタイがあったからそれを買った。

寺岡さんや僕が仕事をしていたときの同期の西賀にもお土産を買っていくのに、これはコーヒーとチョコレートでいいかなと思って、豆はないかなとスーパーを覗いたらあったのでそれにして、自宅用にも買った。他にもなにかないかなと思っていたら美味しそうなパッケージのパンケーキミックスがあったので、つい買ってしまった。コーヒーは毎朝コーヒーを飲む陸さんにいいかなと思って。そしてナッツも買って。他のお菓子も買って。そんなこんなで結構な量になった。それでもワイキキに寄り、ビールを何本か買い、フードコートに寄りプレートをテイクアウトしてタクシーで帰ってきた。

これで新婚旅行ーらしくないけれどーも終わりだ。結局、陸さんとは一度しか夕食を一緒に食べることはできなかった。それでも起きれば陸さんがいるということだけでも、陸さんに憧れている僕には嬉しいことだった。そんなことを考えながら荷造りをした。


新婚旅行のハワイでの1週間はあっという間だった。

陸さんとは結婚する前と変わらず最低限の会話だったけれど、親同士が決めた許嫁だったというのに無視したりはしない。それは陸さんの育ちの良さを感じる。

この結婚は陸さんが望んでした結婚じゃない。それはわかっている。子供の頃は一緒に遊んでくれたりはしたけれど、それは大人の中にいてもつまらないからだったんだろうと思う。でも、自分が大人になってしまえばそういうわけにもいかない。僕も大人になってしまっているからだ。

それに、陸さんにはっきりと聞いたわけではないけれど、恐らく好きな人がいる。その心の中にはその人1人しかいないんだろう。間違えても僕はいないし、入る隙間もないだろう。それは仕方ないと思っている。

そんな風に結婚したからハワイに来たって行動は最初から最後まで別々だったし、会話だって挨拶と最低限だけだった。

陸さんとはそんな感じだったけれど、僕のハワイ1人旅(?)は楽しかった。と言っても本を読むか本屋に通い詰めて面白そうな本を買い込んだだけだけど。本屋さんに行きたいが為にマウイ島の別荘ではなくオアフ島にして貰ったくらい、アメリカの本屋さんに行きたかった。

ハワイ最後の夜も陸さんが部屋で食べると言わなかったので、恐らくどこか食べに出かけたのだろう。僕はフードコートでテイクアウトしたメキシコ料理にした。

早めにコンドミニアムに戻り、お風呂に入ってからお土産ものと自分で購入したものをスーツケースにしまっていく。行きにカラカラだったスーツケースもいっぱいになってしまい、お土産のいくつかは入らなかったので別途袋に入れたままだ。ちょっと本を買いすぎたかもしれない。

そして翌日の帰国日は早めに空港に着き、ラウンジでコーヒーを飲みながらゆっくりとしていた。それよりも今日これから帰るのはそれぞれの実家ではなく、2人のマンションだ。

新婚生活は都内のタワマンだ。荷物を運び入れるために何度か行ったけれど、一軒家のような広々とした感じはないけれど2人で住むには十分な広さだし、何より立地が良かった。

マンションの下にはクリニックとスーパーがあるし、少し行けば銀行やレストランもある。駅からは徒歩10分くらい。最も陸さんは車での迎えが来るから電車なんて乗らないけれど。とにかく便利なマンションだ。

帰るのが陸さんと住むマンションだということは不思議な感じもするけれど、そのうちに慣れるのだろうか。でも、ハワイでもそうだったけれど、子供の頃から憧れていた陸さんと一つ屋根の下に住むということにドキドキした。しばらくはドキドキするんだろうな。いや、ずっとかもしれない。陸さんのことは結婚した今でも憧れているから。

飛行機の席は隣同士だ。隣と言ってもファーストクラスだからエコノミーとは違いパーテーションで区切られているから、比較的独立している。

機内では喋ることもなく、ハワイから東京まで無言のままだった。そして羽田空港には陸さん付きの秘書兼運転手の寺岡さんが迎えに来てくれていた。運転手と言っても陸さんと同じ歳なので仕事以外では結構仲が良いらしい。


「お帰りなさい」
「ああ。迎えありがとう」
「まっすぐ帰りますか」
「そうしてくれ」

そう言うと陸さんは後部座席に乗り込み、僕は寺岡さんにペコリと頭を下げてから陸さんの隣に座り込んだ。