EHEU ANELA

愛のない婚約者は愛のある番になれますか?

自分の気持ち 02

初めての日光は見どころが多く楽しかった。今回は日帰りだったので少ししか見れなかったから、今度は今回行けなかったところに行ってみたいと思った。そしたら千景のことを誘っていた。

週末は顔をあわせているせいか千景といることにストレスを感じたりすることはない。それは千景が気を使ってくれているからかもしれない。それでも千景と一緒にいることに違和感を感じなくなっていた。

それに千景が見せる笑顔に癒やされている自分にも気づいている。週末、その笑顔を見ると週明けの仕事も頑張ろうと思える。この感情に覚えはある。和真に感じていたのと同じような気持ちだ。まさか千景のことを?

車を運転しながら千景のことを考えていた。事故に気をつけなくては。和真があったように歩行者にはねてもいけないし、乗っている千景に怪我があってもいけない。


「帰りになにか食べて帰るか。あれだけだとお腹すくだろう」
「そうですね。変な時間にお腹空いちゃいそうです」
「なんでもいいか?」
「はい。陸さんにお任せします」

焼きおにぎりを食べたとは言え、ひとつだけなのですぐにお腹が空くだろう。千景の誕生日祝いも兼ねているから、きちんとしたお店で食べたい。間違えても高速のサービスエリアなどでは済ませたくない。どこがいいだろうか。

まずは個室のあるところがいいか。その方がゆっくり食べられる。メニューとしてはなにがいいだろう。そうだ。最近すき焼きを食べてない。すき焼きにしようか。すき焼きで個室のあるところ。ディナーコースがあるといい。

ちょうどそんな店を知っていたので、次のサービスエリアで予約をしておこうか。


「すき焼きでいいか?」
「すき焼きですか。うわぁ。最近食べてないです」
「それならいいな」
「はい! すごく楽しみです」

千景に訊くと、すき焼きでいいようなのでトイレ休憩をした際に電話で予約をする。別に予約なしでもいいのだけど、個室が良かったので、念のための予約だ。

 

高速は週末なので多少混雑してはいるが大きな渋滞もなく、予想通りの時間に都内に着いた。

すき焼きの店は街中にあるので、こういうときはちょっと駐車場に困るが、店の近くのパーキングに運良く空きがあったので入れる。

 
「うわ。こんなところにあるすき焼きなんていいんですか?」
「いいもなにも俺が予約したんだからいいんだろう」
「そうですけど……。お肉、美味しいんだろうな」
「あぁ、いい和牛を使ってる」
「楽しみ」

以前、この店で会食をしたことがある。そんな風に使える店ではあるけれど、普通のディナーとしても使える。それになにより個室があるのがいい。ゆっくりと食事を楽しむのなら個室がいいと俺は思っている。

店内に入ると奥の個室に通される。そこのテーブルには既に野菜と小さなごま豆腐の入ったかご盛りが置かれていた。

席に着き、そのかご盛りを見た千景は目をキラキラさせる。この顔をした千景が好きだと思った。この笑顔を守りたい。そう思った自分に一瞬驚いたけれど、どこか納得もできた。

千景のクラス会の帰り、安心しきって寝てしまった千景を送ってきてくれた彼にもやもやした。クラス会で仲の良かったメンバーに会えて楽しくて、良く知ったメンバーだから無防備にも寝てしまったのだろう。そしてそんな千景を当然のように送って来た彼。もしかしたらオメガの千景を守ってもいてくれたのかもしれない。俺も千景を守りたいと思ったのだろう。そのときはぼんやりとした感情だったけれど。

そして俺の高校のクラス会のとき、俺は千景のことを考えていた。金もクレジットカードも渡しているのに千景はどこかに美味いものを食べに行ったりしている様子はない。だからせめて俺が美味い店に食べに連れて行ってやりたいと思った。そして実際にクラス会の翌週、元町のフレンチの店に連れて行った。

2階の大正時代あたりの和の中に洋を感じるお座敷個室で食べたコース料理はとても美味しく、デザートも美味しかったので、帰りに千景にケーキを買ってやった。そのときも今と同じく目をキラキラさせていた。嬉しそうに楽しそうに食べる姿を見て、また食べさせてやりたいと思った。

そんな風に考えるのは好きだからだ。俺は和真が好きだった。今だって和真のことを考えると辛い。それでも、千景の笑顔を守ってやりたいと思ってしまうんだ。

いや、今までの俺が酷すぎて、今さらそんなことを言ったって信じて貰えないかもしれないし、虫の良いことを言っているかもしれない。それでも、今までのことを挽回して、これからは守りたい。そう思うんだ。




「綺麗。飾り方が綺麗すぎて食べるのがもったいないです」
「食べろ。美味いぞ」

千景が箸を持ったまま食べれないというのを横目に俺は箸を進めていく。そんなに気に入ったならいくらでも連れてきてやるのに。そう言ったら食べるだろうか。試しに言ってみる。


「いつでも連れてきてやるから食べろ」
「そんな! だって絶対高いですよね」

食べるかと思ったけれど、金のことを気にしてきたか。そんなこと気にしなくていいのに。


「そんなこと気にするな。そんなに言うのなら、たまになら気にならないだろう。いいから食べろ」
「……はい」

千景のことだから連れてこようと思っても絶対に遠慮するんだろう。そんなに毎日贅沢をするわけじゃない。たまになら問題ないだろうに。

野菜に口をつけると、顔が明るくなった。


「美味しい! いつも食べているのと味が違います! 無農薬とかこだわって栽培されたものなんだろうな」

そんなに言うほどだろうか。確かに美味いとは思うけれど、千景ほどは思わない。大体、千景が作ったものだって俺は美味いと思って食べている。

俺が相づちをつかないからか千景は静かに、ゆっくりと箸を進めていく。かご盛りを食べ終わったと同時ににぎり寿司が運ばれてくる。にぎり寿司と言っても小ぶりなものだけど。


「お寿司だ!」

寿司が好きな千景は先ほどよりも目を輝かせ、そして海老を食べるとさらに目はキラキラとする。この笑顔をまたさせてやりたいと思うんだ。千景はほんとに美味そうに、大事に食べるから。


「ネタが美味しい! メインの料理じゃないのに。陸さん、ここのお寿司美味しいです」

食べる度に感想を言ってくる千景につい笑ってしまった。食レポでも見ている気分になる。でも俺が笑ったからか、千景は箸を止めポカンとした顔で俺を見る。俺が笑うといつもこの顔をする。そんなに珍しいか? いや、千景にとっては珍しいか。今まで笑うことは少なかったから。


「悪い。食レポでも見ているみたいで笑ってしまった。気に入ってくれたのなら良かった」
「すいません……。あまりにも美味しくて、つい。煩いですよね」

千景はそう謝ると、今度は静かに箸を進めていく。でも、顔の輝きは変わらない。それを見てほんとに気に入ってくれたのだとわかる。それなのなら、ほんとにいつでも連れてきてやる。

千景を見ているのが楽しくて、つい自分の箸が止まってしまう。でもすぐにメインのすき焼きが煮えてきたので蓋を開けると肉のいい匂いがする。


「うわ〜。匂いからして美味しいのがわかる」

先ほど口を閉ざしたはずなのに、肉の匂いにつられて言葉になってしまったみたいだ。それに対してまた笑ってしまう。また近いうちに連れてきてやろう。そう思った。


「陸さん! 煩いの承知でいいますけど、美味しすぎます! 幸せだな」

美味いものを食べて幸せだと感じる千景が可愛く思える。まさかこんな風に思うことがあるなんて思わなかった。和真を失って、もう誰も愛することはないと思っていた。でも、千景は凍ってしまった俺の心を笑顔で溶かした。千景の笑顔はすごいな。その笑顔をずっと見ていたいと思う。

そんな千景の笑顔を見ていてふと思い出した。


「そう言えば、そろそろヒートじゃないのか」

俺のその言葉に千景の顔が赤くなって、小さく頷く。だからなんでヒートという言葉にそんなに恥ずかしがるのか。母さんの受け売りじゃないけどヒートは恥ずかしいものじゃない。


「今度ヒートが来ても鍵をかけなくていいから」
「でもっ! そうしたら陸さんにまた迷惑をかけてしまうから……」
「迷惑なんかじゃないから。だから鍵は必要ない。ただ、項は今はまだ噛めない」

千景を好ましいと思う。だからヒートのときに鍵は必要ない。千景の気が済むまで抱いてやる。でも、まだ項を噛んではやれない。自分の気持ちに気がついたばかりだから。

でも、いつかそう遠くないうちに、その項を噛むだろうと思う。だから、それまでもう少しだけ待って欲しい。


「番うのは、陸さんの気持ちが噛んでもいいと思ったときにでいいです」
「お前は嫌じゃないのか。俺と番になることが」
「嫌なんかじゃないです。だから、焦らないでいいですよ」

そう言う千景の顔は慈愛に満ちていた。俺の心をふわりと包み込むような微笑みだった。

 
 

日光へ行ってから5日後、仕事を終えて家に帰ると玄関や、リビングダイニングの電気はついているのに千景の姿はどこにもなかった。それどころか甘い花の香りがしてくる。これは千景のフェロモンだ。ヒートになったのか。

とりあえずスーツを脱いで部屋着に着替えると千景の部屋へ行く。日光からの帰り道で鍵は閉めなくていいと言ったけれど開いているだろうか。ドアノブを回すとドアは開いた。

部屋の中は電気が消えていて、灯となるものはカーテンの開いている窓から差し込む月明かりだけだった。目を凝らすとベッドに横向きに寝て男根をしごいている千景の姿が見える。


「千景」
「嫌! 見ないで……」
「嫌じゃないだろ。抱くぞ」

千景に触れると驚くほど体が熱かった。ヒート時はこんなに体が熱くなるものなんだな。そんなことを考えながら、こちらへ向かせる。

俺を見上げる瞳は潤んでいて、フェロモンだけでもやられそうなのに、その瞳で我を忘れてしまいそうだ。

千景に口づけを落とし、乳首を右手で愛撫する。少し力を入れてつまんでやると、千景は甘い声をあげた。


「はぁん……」

そして甘い声をあげるとフェロモンはさらに濃厚になる。ダメだ。もう我慢できない。

乳首を口に含み、じゅるじゅると乳首を吸いながら手は後孔の周りをなぞると、そこはすでに濡れていて指はすんなりと一本飲み込んだ。

普段ならろくに愛撫もせずに指を入れるなんてしないけれど、今は千景のフェロモンにあてられて余裕がない。ほんとならこのまま自身をぶち込みたいところだ。

でも、千景にそんなことはしたくなくて、指を入れて慣らす。指をゆっくりと抽挿する。顔を見ると快感にとろけた表情をしていて、嫌な顔はしていない。

そして俺は抽挿を繰り返しながら千景のいいところを探す。そしてある一点に指が触れた途端、千景の体が大きくびくんと跳ねる。


「ここか?」
「ダメ、ダメぇ。おかしくなっちゃう」
「ここなんだな」

指でそこを優しく押すと千景の声はさらに大きく、甘くなっていく。


「あ、あぁん……。んぅ。イキたいよぉ」
「イキたいならイけ。何度でもイかせてやるから」
「ん……ん……イク、イク、イっちゃうぅ」

そう言うと千景は白を吐きだした。俺は入れていた指を二本、三本と増やし指をバラバラと動かしながらも千景のいいところに触れる。その度に千景は甘い嬌声をあげ、フェロモンをさらに濃厚にさせる。もう、これ以上は俺が我慢できない。


「入れるぞ」
「ちょうだい。陸さんの、ほしぃ」

熱に浮かされているような状態なのに、俺が誰なのかわかっているのが嬉しかった。

自身を千景の蕾みにあて、ゆっくりと挿入していく。指を三本までしか入れて慣らしていなかったけれど、そこは俺をきちんと迎え入れてくれた。そうしてゆっくりと全部を入れた。


「ん。陸さんの……うれ、し」

そう言って千景は微笑んだ。その顔は嬉しそうだった。

落ち着いた腰をゆっくりと動かすと、中は俺を離さないとでもいうようにうねり、締め付けてくる。クッ。こんなんじゃすぐにこちらがイってしまう。

息をつめながら抽挿を繰り返すと千景の声はさらに甘くなっていく。


「あぁん。イク、イク」
「ああ。イけ」
「イク、イクーっ」

そう言って再び千景は自分の腹を白で汚した。そのあと千景の体を四つん這いにし、さらに深くを突く。そして俺の目の前にはほっそりとした千景の項がある。


噛め――。

その項を噛め――。


本能がそう叫ぶ。けれど、焼け切れそうな理性でそれを堪える。まだだ。今はまだ噛めない。千景の気持ちがわからないし、なにより俺はまだ自分の気持ちに気づいたばかりで和真のことがまだ心に残っているから。だから今はまだ噛んではいけない。

千景の項を噛む代わりに、俺は自分の唇を強く噛む。痛くて血が出そうだけど、そんなことを言っている場合じゃない。今はまだ番えないんだ。

項は噛めないけれど、いくらでも逝かせてやるから、何度でも逝け。


「ダメ。あぁ。またイっちゃうぅ」
「俺も、クッ。限界だ……」

そう言って千景がイったあと、俺も堪えられず精を放った。