EHEU ANELA

愛のない婚約者は愛のある番になれますか?

初めての 01

正月が明けバレンタインデーの忙しさが終わり、次はホワイトデーの波がやってくるけれど、その間のほんの少し息をつけるときに家に帰ると電気が付いていなかった。

出かけるときには必要ないと言っても一言言ってから出かけている千景が今日は特になにも言っていなかった。急になにかあったのだろうか。それとも部屋で寝てしまっているのか。

リビングダイニングの電気をつけ、千景の部屋のドアの前に立つと甘い花の匂いがした。ヒートを起こしたのか?

そう言えば、正月に実家に帰ったときに番になれと母さんに言われたなと思いドアをノックする。当然返事はない。鍵はかかっているだろうかと試しにドアノブを回すとドアは開いた。

ドアが開くと匂いはさらに濃くなり、人の荒い息遣いが聞こえた。千景だろう。


「電気つけるぞ」
「……つけ、ないで」

返事をするのもやっとなのだろう、その返事を無視して俺は電気をつける。ベッドの上で自分を慰めている姿が見える。普段の千景からは想像できないセクシャルな格好だった。

その格好と匂いとで俺はラットを起こしかけた。

やばい。このままだと千景を抱いてしまう。そう思って部屋を出ようと頭では思うけれど、理性を保つことは無理なようで千景に手を伸ばしてしまう。すると千景は匂い同様甘い声をあげる。その声に俺の中のわずかな理性さえも溶けてしまう。

 

抱け。

目の前のオメガを抱け。


俺の中で千景を抱けという声が聞こえる。俺はその声に従うように、千景の体にキスの雨を降らしていく。その肌まで甘く感じてクラクラしてしまう。

唇にキスを落としてから、唇をどんどん下へと辿っていく。そしてキスが胸の頂に到達すると千景はさらに甘い声をあげる。


「や……ん」

千景の体も声も甘くて、そして俺に媚びているような甘い声が俺を誘う。


「はぁ……ん、やぁ」

乳首を執拗に舐め、カリっと甘噛みするとさらに甘い声をあげる。


「んぁ。噛んじゃ……ダ、メ」
「そんなこと言っても体は喜んでるぞ」
「あぁ……感じ、ちゃ、あぁ、うからぁ」

息も絶え絶えに言う千景は体をくねらせて、余計に俺を誘ってくる。

唇をさらに下へと滑らせ、腹へと行ったところで後ろに手をやる。そこはヒート時だからだろう既に蜜が溢れていた。

唇で千景のモノにキスを落とす。すると千景の声はさらに大きくなる。


「いやぁ。そこはダメーー」

その声を発した後に白い液体を出し、千景の腹を汚す。千景はダメと言ったがラットを起こしたアルファを止めることはできない。

片足を俺の肩へとかけ、足にもキスを落としていく。


「あぁん……は、ぁ」

千景の顔に目をやると、頬を赤く染め、快楽に溶けきった顔をしている。今までオメガを抱いたことはないけれど、こんなに乱れるものなんだな、と頭のどこかで思う。

足へのキスを終え、千景の体をうつ伏せにさせて右手で蜜坪に指をつぷりと入れると千景はまた甘い声を漏らす。


「んぅ……は、ぁン」

男の体は濡れるようにはできていない。だけど、オメガは普通に濡れる。

指を1本から2本、3本と増やしても今の千景には快感を与えているだけにすぎないようだ。


「もっとぉ……もっと、ちょうだい」

甘い声で強請られ、俺は自身をその蜜坪へと入れた。すると千景はさらに甘い声をあげ、匂いもさらに濃くなった。


「あぁ、きもち……い、ぃ。もっとぉ」

その声に促されるように俺は腰を動かしはじめた。

俺の自身が千景のいいところにあたったのだろう。その度に千景は甘い声をあげる。そしてその甘い声を聞くと頭がおかしくなりそうで、目の前のオメガを食らうことしか考えられなくなる。

正常位で攻めていたのを今度は四つん這いにさせる。千景がどの体位が好きかはわからないけれど、正常位よりも深くなるのがバックだ。


「やぁ。あン……」

その甘い嬌声は普段の千景の様子からは想像できないアルファに媚びを売る啼き声だ。

バックからガンガンと腰を振って千景を征服しようとする。本能は目の前のオメガを孕まそうとするだけだ。

そこで千景の細い首が視界に入り、項が見える。その瞬間、項を噛もうと本能が告げる。あと少しで項に唇が届くところまでいったとき、かすかに残った理性がそれを止める。ダメだ。合意の上じゃない。俺だってそうだし、千景だってそうだろう。だから今は違う。

俺は項を噛む代わりに腰の抽挿を激しくする。それで俺の呼吸が乱れると同様に千景の呼吸もさらに乱れる。


「あぁ。いい。そこ……」
「ここがいいのか」
「ン、そこ……」

千景がいいというところを擦り続けていると、腕に力が入らなくなったのか潰れてしまい、俺が抱いている腰だけが高くなっている状態になり、それがまた余計にエロティックだった。


「はぁ、あぁ。イキたい……イキたいよぉ」
「もっと奥を突いてやるからいくらでもイけ」

その言葉を言いながら俺は四つん這いから騎乗位に変える。こうすると千景の体重がかかり余計に深くなるから、今の千景にはたまらない体位だ。


「ん……深いぃ」
「深くていいだろ」
「うん……き、もち、いぃ」
「ほら、イけ。イきたいんだろ」
「イキたい……あ、イく、イく。イっちゃうぅ」

そう言うと千景はまた白を吐きだし、俺の腹を汚す。そしてイク瞬間に俺のものをキツく締め、俺もたまらずに千景の中で精を放った。

白を吐きだしたばかりだというのに、千景のモノはまだ立ったままだ。まだまだイけるのだろう。そしてそんなオメガの様子にアルファの俺もあてられる。

 
「もっと……もっとちょうだい」
「あぁ、いくらでもイけ。イかせてやるよ」
「んぅ……いぃ。きもち、いい」
「イかせてやるから、自分の好きなところにあててみろ」
 

俺がそういうと千景は貪欲に腰をくねらせて自分のいいところにあてようとしている。だが、うまくあたらないようだ。


「イケない。イケないよぉ……ちょうだい。もっとちょうだい」

自分ではうまくあてることができないせいで千景は半泣きになる。そこまでしてでもイこうとするのがオメガで、オメガの嬌声があがる度に花の甘い匂いは強くなり、アルファの俺はラットが深くなる。

もっとちょうだいと泣く千景を見て俺は再度正常位に戻る。そして腰を使って千景が喜ぶところをこすってやる。


「あぁ。いぃ、いいのぉ。イク、イっちゃうぅ」

そう言うと千景はまた白を吐き出す。それでもまだ満足しない千景を俺はどこまでも攻めた。

そしてどれくらい千景をイかせたのか、千景が意識を失うまで俺は千景を攻め続けた。


 
*****


「ん……」

カーテンの隙間から差す光で目が覚めた。そして目の前に眠った陸さんの顔があり、僕は驚いて声を上げそうになり、必死に声をあげるのを抑える。

え? なんで? ここ、僕の部屋じゃないの? いや、どの部屋にしたってなんで陸さんが僕と同じベッドで寝ているの? そうだ。僕、ヒートを起こして部屋に籠もってたんだ。もしかして、陸さんラットを起こしたとか?

そうして覚えている限りのことを思い出そうとする。そうだ。それでゆきなお義母様に言われたのもあり、いつもならヒートがくると部屋の鍵を閉めていたけれど今回は一応開けておいたんだ。それでラットを起こした陸さんが……。

そうだ。陸さんに抱かれたような気が……。え? 僕、まさか誘っちゃってないよね? そこはさすがに記憶がない。だいたいヒートのときのことを覚えていると気がおかしくなりそうになる。それくらい僕はヒートが恥ずかしい。

そうやって僕が慌てながらも思い出していると、目の前の陸さんは目を覚ました。こんなに間近で陸さんを見るのは初めてでドキリとして逃げようとして起き上がる。


「もう大丈夫なのか?」
「あ、あの……はい。ほぼ終わり……ました」

僕はヒートのことを話すのがとてつもなく恥ずかしい。それを好きな陸さんに言うんだから余計に恥ずかしい。


「そうか。記憶はどれくらいある?」
「えっと……ところどころしか覚えてないけど、あの、もしかして僕のこと……」
「あぁ。抱いた」

!! やっぱり僕、陸さんに抱かれたんだ。そう思うと赤くなっていいのか青くなっていいのかわからない。

僕は今までそういった経験がない。それは今まで誰とも付き合ったことがないからだ。できることなら陸さんに初めてをあげたかったから。だからそれが叶ったんだと思うと赤くなるし、でも、陸さんは僕のことを好きなわけじゃないから、ラットで僕のことを抱くなんて陸さんとしては消したい出来事だと思うと青くなる。


「項は噛んでないから安心しろ。それは合意があってからだ」

項、噛まなかったんだ。それは安心していいのか残念に思っていいのかわからない。合意があってから。ということはいつまでたっても僕たちは番にはならないだろう。


「ただ、初めの方はゴムをつけてないから妊娠する可能性はある」

あ、そうか。ラットってオメガのヒートに煽られて急に起こすからゴムなんて取りに行くどころじゃないか。


「もし妊娠してもおろせとは言わないから安心しろ」

産んでいいんだ。普通に僕と陸さんの子として育てていいと言うことだろうか。


「あの……巻き込んでしまって申し訳ありませんでした。あの、お仕事は? 大丈夫でしたか?」
「ああ。休んだ」

え? 休んだ? それって僕のせいで? 番ならばパートナー休暇が認められるけれど、僕と陸さんは番じゃないからパートナー休暇は適用されない。それになにより普段忙しくしているのに休んだりしたら余計に忙しくなってしまう。


「まぁ休んだと言ってもお前が寝た後にリモートで出来ることはしたから気にするな」

気にするなと言われても、今の言い方だと出来なかったこともあるんだろう。僕のヒートに陸さんを巻き込んでしまったことが申し訳ない。やっぱり鍵をかけておくべきだった。


「仕事にも支障ありましたよね。ほんとにごめんなさい」
「ヒートだったんだから仕方がないだろう」
「あの、今日って何曜日ですか?」
「土曜日だ」
「あの! ご迷惑をおかけしたので、陸さんの食べたいものなんでも作ります! なんでも言ってください!」

そう言って僕は頭をさげる。だって、僕ができることって言ったらそれくらいしかないから。

 
「久しぶりにステーキが食べたいな。それとスープ。それでいい」
「え? そんなのでいいんですか?」
「ステーキは肉を焼くだけだが、今俺が食べたいのがそれだ」
「スープはなにがいいですか?」
「それは千景に任せる。美味いのを作ってくれ」
「わかりました。そしたら少しでもいいお肉を買ってきたいので買い物に行ってきます」
「下じゃないのか」
「ええ。隣の駅まで」
「そうしたら車を出す」

陸さんの要望がステーキだったので、少しでもいいお肉を焼いてあげたいと思った。

下のスーパーにも牛肉は売っているけれど、ちょっとでもいいお肉をと思ったらちょっといいスーパーに行った方が美味しいお肉が売っているだろうから、隣の駅にある少しリッチなスーパーに行くことにした。

普段なら下のスーパーで十分だけど、今回陸さんは大変な目にあったのだからそれくらいのことは贅沢にならないだろう。

でも、車を出してくれるという陸さんに、いいのだろうかと思う。だって、陸さんのプライベートな空間だ。いや、もう何度か乗せて貰っているけれど。

だけど、車を出してくれるというのに電車で行くと言い張るのは違う気がするのでそこは甘えることにする。最近はこうやって車を出したりしてくれるようになって、ほんの少し距離が縮まった気がするのは気のせいではないはずだ。年末には熱海にまで連れて行ってくれたほどだ。


「お肉は陸さんが選んで下さいね」
「わかった。たまには贅沢してもいいだろう」

陸さんがたまにの贅沢をするのはいいと思う。でも、僕まで贅沢してしまってもいいんだろうか。僕1人なら下のスーパーで十分だけど、違うのをわざわざ買いに行くのも変なので、せめてほんの少しでも安いものを選ぼうと思う。


「目的地を教えてくれ」
「はい」

目的地をナビに入力し、車が出る。お天気が良くて陽射しが強いので陸さんはサングラスをかけた。その姿を見た僕はまた息が止まるかと思った。それくらい格好良いのだ。助手席からその姿が見れるなんて、なんて贅沢なんだろう。お肉が贅沢という以前にそんなに格好良い陸さんを見れることが贅沢だ。でも、じーっと見ているのも不審者っぽいので、なんでもない振りをして窓の外に目をやる。

僕は子供の頃から陸さんが好きだけど、一緒に住むようになってから以前よりも好きだという気持ちが大きくなっている。結婚した当初は離婚にならなければいいと思っていたけれど、今はほんの少しでもいいから僕の方を見てくれないかなと思うようになった。

わがままだ。わかってる。でも、少しでいいから僕のことを好きになって欲しい。陸さんの好きな人の次でいいから。そう願ってしまう。

そんなことを考えているうちにスーパーに着いた。元々近い距離だからすぐだ。


「ここなら陸さんが食べたいと思うお肉もあると思います」

そう言って僕は買い物カゴを持って店内に入る。


「米とか重い物は大丈夫か? 下のスーパーからでも持ってあがるのは大変だろう。今日は俺が持つから重い物も遠慮なく買え」

陸さんはそう言ってくれる。陸さんのこういう優しさが僕は好きだなと思う。


「ありがとうございます。でも、お米は先日買ったばかりなので大丈夫です」
「そうか。いつもすまない」

ほら、陸さんの優しさ。その優しさに触れて僕の心はほんわりと温かくなった。