式場に着き、僕と樹くんは別々の控室に案内された。
控室で準備と言われても、メイクで顔色を整えて、髪をセットして着替えたら終わり。これが女性なら大変なんだろうけれど、男の僕はトータル三十分もあれば準備完了。
準備が終わって、式が始まるまで後十五分くらい残っているので、スマホを見ていると父が入ってきた。思ったよりも早く来たな、という印象だ。早く来たって、何を話すでもない。子供の頃から遠い存在の人だったんだ。今さら親子ごっこは演じられない。
最後の日まで、子供、子供。早く子供を産め。言われなくてもわかっている。そして、僕みたいなベータは産むなって。でも産むのはそんなベータだった僕なんだから皮肉だ。
最後までこんなことを聞かされるのなら、来なくてもいいのに。まぁ、父も来たくはなかっただろうけれど、加賀美の長として出ないわけにはいかないんだろう。何しろ、長であり戸籍上の父親なのだから。
でも、これで子供が産まれたときに性別を報告すれば済むので、あまり会うこともない。それは親子としての祝いの報告ではなく、事務的な報告だ。ここでベータだったなんて言ったら、それこそまた出来損ない・役立たずと言われるのだろう。そう考えると気が滅入ってくる。
そうしたところで、樹くんのお義父さんとお義母さんが入ってくる。
役に立つ、と僕を物扱いする父ときちんと人間扱いしてくれるお義父さんとお義母さん。すごい違いだ。
お義父さん、お義母さんは本当に優しい。
父はこの場では浮くくらいにビジネスライクだ。普段、結婚式に出席するときもこんな調子なんだろうか。僕達は物じゃないのに、父にとっては物としか見えてないのだろうな、と思うと悲しくなった。
そう言って、父たちは控室を出て行った。
チャペルのドアの前へ行くと、樹くんが既にいた。
光沢のあるシルバーに襟元やベストなどの差し色に黒を使ったフロックコートは洗練された樹くんにぴったりで、思わず見惚れてしまいそうになる。
甘くて蕩けそうな表情で褒めてくれる樹くんに、恥ずかしくて思わず俯いてしまった。
恥ずかしがっているのは僕だけで、言った当の本人である樹くんは涼しい顔をしている。
女性が新婦となる場合は、父親と腕を組んでバージンロードを歩くが、僕と樹くんはどちらも男なので、二人で腕を組んでバージンロードを歩いて祭壇まで行く。
それにしても樹くんは落ち着いているように見えるけど、緊張していないのだろうか? 僕は緊張してきてガチガチだというのに。
まぁ、僕も樹くんも一人っ子なので、参列しているのは両家の親と樹くんの従兄弟が一人しかいないという、こじんまりとした式だ。
それでも、人が見ている前で誓いのキスとか恥ずかしすぎる。それに写真も撮られるし。こじんまりと親族のみ、としたけれど二人だけの方が良かったかもしれない、と今さら思ってしまった。
そんなやり取りをしていると、ドアが開き、賛美歌が聞こえてくる。
堂々と歩きだす樹くんに半歩遅れる形で僕は歩きだした。
そして、祭壇の前の牧師さんの前で立ち止まる。ここで僕の緊張はピークを迎えた。横目でチラっと樹くんの方を見ると、落ち着いた表情で牧師さんの方を見ている。樹くんがいるから大丈夫。自分にそう言い聞かせた。
自分を落ち着けている間に、誓いの言葉に入ってしまっていた。
僕が一番恥ずかしい誓いのキスになってしまい、体がカチンコチンになり、目をギュッと瞑ってしまう。僕が緊張しているのを知っている樹くんは、柔らかい笑顔を浮かべてから、僕に軽くキスをした。
こうして、僕は緊張でわけがわからない中、結婚式はつつがなく終わった。
僕はホテルのダブルベッドにダイブした。
緊張しっぱなしだった結婚式を終え、出席者交えての食事会は何がなんだかわからないうちに終わった。式場にほど近い、美味しい中華料理のお店をチョイスしたのに、僕は何を食べたのか、味がどうだったのかさっぱり覚えていない。樹くんに訊くと、どの料理も本当に美味しかったけど、特に北京ダックが美味しかったという。安いお店なんかだと、ぱさぱさで味がさっぱりわからないようなのもある中で、しっかりと味がしていたという。
樹くんは、僕の隣に座っている。
僕は逆に近しい親族だからこそ恥ずかしかったというか、いくら誓いのためとはいえ人前でキスとか恥ずかしすぎた。
そう言って、身を屈め、頬にキスをしてきた。緊張してた姿が可愛いなんて、そんなことあるはずがない。そう言って睨むけれど、樹くんはどこ吹く風だ。ちょっと悔しい。
寝室とはいえ、写真を飾るのは恥ずかしいけれど、寝室なら僕と樹くんしか見れないからいいのかな? 樹くんは既に見ちゃってるわけだし。でも、ちょっと恥ずかしすぎる。一生に一度の結婚式があんなに緊張しまくってたっていうのは残念すぎるけれど。
そう。仮に樹くん以外に僕のことを独占したいと思う人がいたとしても、僕は樹くんがいればそれでいい。僕が独り占めしていいのかわからないけれど。できればずっと樹くんの隣にいたい。
そのためには、父の言うように早く子供を産まなければ。そうすれば、樹くんのそばにいてもいいでしょう?
樹くんに離れていって欲しくなくて、僕は自分からキスをした。僕から樹くんにキスをしたのは初めてだ。と言っても触れるだけのキスだけど。
樹くんはそう言うと、上から優しいキスのお返しをくれた。でも、そんな優しいキスは初めだけで、角度を変えてキスを繰り返すうちにどんどんと激しいキスに変わっていき、すぐに僕は呼吸が苦しくなった。
そう言うと、僕の唇をぺろりと舐めた後、口の中に樹くんの舌が入ってきて、口の中を縦横無尽に動き回る。その動きに翻弄されて、僕は呼吸をするのが精いっぱいだ。
キスのお礼? なんだろう? 思ったのはほんの一瞬で、服の上から乳首を触られたことで、どういうことなのかわかった。
僕の咥内を犯していた樹くんの唇は、頬を通り、耳へと来た。僕は特に耳が弱いので、それを知っている樹くんはセックスの初めは執拗なくらい耳を愛撫する。
耳朶を執拗なくらい食む。耳たぶが溶けて食べられちゃいそうだ。
耳朶を食むことに満足したのか、今度は耳全体をぱくりとされてしまった。耳全体を散々食まれて、僕は何も考えられなくなる。耳全体を食むことに飽きたのか、耳の中をぴちゃぴちゃと舐められる。
僕は樹くんの舌の動きに翻弄され、その度に背をのけ反らせる。こうなると僕ができることは、樹くんの愛撫にただただ感じるしかなくなるのだ。耳への愛撫を受けていると、いつの間に脱がされたのか、僕は産まれたままの姿になっていた。
耳への愛撫で満足な反応を得た樹くんの唇は、喉、鎖骨と通り、胸へと到達する。そしてためらいもなく、胸の頂きを猫がミルクを舐めるように執拗なくらい舐めた後は、乳首にカリッと歯をたてる。甘咬みよりは強いその衝撃に、僕は声をあげる。
そう。樹くんの言う通り、僕は甘咬みよりは少し痛みを感じるぐらいの方が感じてしまうのだ。
片方の胸は口で好きに愛撫され、もう片方の胸は手で愛撫される。
手で愛撫されている側の胸は、平らな胸を弄られ、乳輪をなぞるように円を描く。もう片方の胸とは違い、簡単に乳首にはこないで焦らされる。それが焦れったくて焦れったくて、身をくねらせてしまう。
こうなると僕はもう半泣きで、樹くんの言うがままにおねだりしてしまう。
そう言うと樹くんはやっともう片方の僕の乳首も触ってくれる。
両乳首への刺激で、僕は声が抑えられない。
樹くんはにっこりと笑いながら、無理なことを言う。乳首だけでイクなんて女性だって難しいだろうに、男の僕にはもっと無理だ。でも、言葉通りにペニスを触ってくれたので、僕はその刺激だけで思い切り精を放った。
そう言うと樹くんは、ゆっくりと樹くん自身を僕の後孔に挿れてくるイッたばかりの体ではそれだけの刺激にも過敏に反応してしまう。
そう言って、チュッと額にキスをくれる。樹くんはセックスの最中にもキスをくれるので、僕はとても心が満たされる。体だけじゃなく、心が伴うセックスは気持ちいい。
挿入されて、優しくキスされたら気持ちいいに決まってる。
そう言うと、樹くんは緩やかに抽挿を始めた。そのあまりの緩やかさに物足りなくて、もっとと腰が動いてしまう。それを知っててゆっくりと腰を動かす樹くんは意地悪だ。
今日はお祝いだから、と言っておいて今日は随分と焦らしてくる。
恥ずかしいけれど頷くと、一気に腰の動きが早くなる。それに耐えきれなくて、僕は樹くんの背中にすがりついて声をあげる。
啼いて、と言われなくても、もう嬌声をあげるしかない。パンッパンッと肌のぶつかる音がして、その音にさえも犯されている気がしてしまう。
そう言うと、腰の動きはさらに早くなり、すがりついていた背中に爪を立ててしまう。
そう言って、僕の中に白を放つ。そうしてゆるゆると数回腰を打ちつけた後は、僕をぎゅっと抱きしめてくれる。その腕が暖かくて心地いい。
こくりとひとつ頷く。
そう言って、唇に優しいキスをひとつくれてから、樹くんは僕の隣に横になる。
その言葉が嬉しくて、樹くんにしがみついて目を閉じた。