その日は朝から体が熱かった。風邪でも引いたのかな? だから講義が終わるとどこにも寄らずに帰ってきた。
体の熱さは夕方になってから余計にひどくなったし、そのせいか呼吸も荒い。
でも体温を計っても微熱程度しかない。なんだろう? 明日、病院に行った方がいいだろうか。とりあえずベッドに横になり、休む。けど、微熱とはいえ熱があるのに、手ペニスに伸び、自慰をしたくて仕方がない。え? これってもしかして?!
そんなことを考えていると、玄関のインターホンが来客を告げる。誰だろう、と覗くと樹くんだった。
僕の言葉に樹くんはびっくりした顔で僕を見る。
そんなことを話してる間にも体の熱っぽさはひどくなり、樹くんが欲しくて仕方がなくなる。
樹くんはそう言うと、荒々しいキスをしてきた。いつもソフトなキスの樹くんにしては珍しい。けれど、僕ももう限界で樹くんにすがりついていく。体はどんどん熱くなる一方だ。
キスをしながら、胸を愛撫する樹くんの手も荒々しい。でも、僕の体はいつも以上に快感を拾っている。
いつもなら甘い言葉をくれる樹くんだけど、今日は余裕がないようだ。恐らくラットを起こしているんだろう。
胸の尖りを爪で引っ掻かれると、いつもなら痛いのに、今日は気持ち良さに背筋が反ってしまう。
胸への愛撫だけで高みに連れて行かれるけれど、欲しいのはそこじゃない。早く樹くんが欲しい。でも、それは樹くんも一緒のようだ。
そう言うと、蕾につぷりと指を一本入れてきた。いつもの僕たちならありえない早さだ。
そう言うと、二本目の指を早々に入れ、抽挿を繰り返す。
はしたなくも、僕は自分から強請った。
一言だけそう言うと、遠慮なく僕の中に入ってきた。
にも関わらず、僕の体はなんの衝撃もなくスムーズに受け入れた。
そして、激しい抽挿に僕の体はどんどん高みへとのぼっていく。
僕はあっけなく一度目の精を放った。にも、関わらず、すぐにも次の波がやってくる。
いつものセックスとは全然違うセックスだ。こんなに激しいセックスを僕はしたことがない。
樹くんはそう言うと、がぶりと項に噛みついた。
その瞬間、僕の体内の熱のうねりが変わったのがわかる。それまで、誰でもいいから熱をおさめて欲しいと思っていたが、その瞬間から、僕の熱は樹くんにだけ向かっていったのがわかる。これで、僕と樹くんは番になったのだ。そう思うと涙が出た。
オメガになって樹くんと番になること。それを夢見てた。ベータだった僕がずっと。それが叶ったのだ。
樹くんはそう言って僕の涙を拭ってくれた。
そう言って腰の動きを早くした。僕はそれに喘ぎ声しか出せなかった。
そうして僕は二度目の精を放ち、樹くんは僕の中に精を放った。
その後も僕達は時間を忘れて、僕が意識を手放すまで抱き合っていた。
僕が目を覚ますと、僕は樹くんに抱きしめられて眠っていた。
僕は体にあまり力が入らないので、樹くんに持ってきて貰う。
ゼリーは桃のゼリーで、まろやかな甘さが美味しい。
僕がそう言うと樹くんは笑った。
オメガになったことを報告したら母さんはどう思うんだろうか。僕としてはこのタイミングで良かったと思ってる。それは樹くん以外の人と番にはなりたくないから。僕は樹くんと番になりたいからオメガになりたかっただけです。親不孝でごめんなさい。
ヒートが落ち着いてからバース検査を受け、結果を聞きにバース科へ行った。結果は、やはりオメガに変わっていた。
そうやって、医師からオメガについて、そしてヒートについての説明を受けた。
そして夜、樹くんにやはりオメガになったことを告げた。すると、良かったね、と言ってくれた。
番契約をしているアルファとオメガが別れた場合、アルファは他のオメガと番になることはできる。でも、オメガの方は他のアルファと番になることはできないのだ。そしてフェロモンは番の相手にしか向かないので、ヒートのときにとても苦しむと言う。なので、ほとんどの番は結婚しているのがほとんどだ。
父はオメガを多く見てきているから、樹くんと引き離すことはしないと思うけれど、何を言ってくるかわからない。だから家には黙っておくことにしたのだ。
大学四年生の今、内定を貰っている人は多い。だから、今からオメガ枠で求人を探すのはちょっと遅い。でも、できれば一度は就職して社会を見たいという気持ちがあるので、結婚してすぐに家庭に入るのは避けたい。
これで、樹くんと結婚できるかもしれないんだ。そう思うけれど、ずっとベータだったから、どこか現実味がなかった。
樹くんからプロポーズをされて、それを受けてから一週間ほどしてから僕の住むマンションに父がやってきた。
樹くんとのデートから帰ってすぐにインターホンが来客を告げた。
玄関ドアを開けると、そこには父がいた。父の顔をきちんと見るのは何年ぶりだろう。きっと母の葬儀以来だと思う。
ここに住んでいることは父は知っているけれど、父がここに来たのは初めてだ。だから、つい身構えてしまう。そうでなくても、子供の頃からほとんど一緒にいたことのない人だから緊張してしまうのに。そんな父が一体なんの用だろう。
父のためにコーヒーを淹れ、対面に座る。自分の分もコーヒーを淹れてあるけれど、緊張して、とても飲む気にはなれない。
当然だが父は緊張もなく、優雅にコーヒーに口をつけ、先に口を開いたのは父だった。
なんで僕がオメガになったことを父が知っているんだろう、と考え戸籍にいきあたる。第二性が変わったことで戸籍がそれまでの”男性ベータ”から”男性オメガ”へ変更になるのだ。この間病院で、バース変更の手続きはバース科の方ですると言われていたので、戸籍のことを忘れていた。
言いたくなかったから。なんて言えるはずがなく、黙っているしかない。
小さい声で、しかしはっきり言うと父の顔は激しいものになった。
オメガになっても罵声は浴びるのか。役立たずか。出来損ない、役立たず。父の口からはそんな言葉しか聞いたことがない。まぁ、加賀美の家の人間が、家長である父に内緒で勝手に番契約をしたのだから気に入らないんだろう。でも、僕は家のためにわざわざオメガになったわけじゃない。僕は僕のためにオメガになったんだ。
僕が気に入らない父は、今度は死者である母に文句がいく。この人は、人のことを将棋の駒だとでも思っているんだろうか。オメガだってベータだって心を持った人間なのに。この人は家のため、と言って勝手に番・結婚相手を決め、有無を言わさない。それがこの人だ。なのに僕は父に黙って勝手に番契約を結んだ。それは気に入らないだろう。
父の言葉を聞いて呆れてしまった。Kコーポレーションの名を出した途端、舌の根も乾かぬうちに褒めるのか。ブランド物を買い漁る女性と何も変わらない。こんな人が自分の父だとは思いたくない。