同性での結婚式やウエディングフォトを撮ってくれるところは意外とあった。
チャペルでの式とガーデンウエディングどちらがいいんだろう。
ネットで見ながらああでもないこうでもないと言いながら探すのは大変だけど楽しい。
一生に一度のことだから妥協はしたくない。
海の見えるチャペルやガーデンでのウエディングとか考えただけで綺麗でいいだろうなと思った。
フォトだってビーチで撮ることもできるだろうし。考えただけで楽しみだ。
立樹がネットで検索している。
パソコンをのぞき込むとハワイでの挙式とガーデンパーティー、ウエディングフォトの写真がたくさんあってわくわくしてくる。
もっとも、それは全てノンケのカップルだけど。
そうだよな。普通はノンケのカップルの海外ウエディングで、ゲイの海外ウエディングはそのうちのひとつでしかない。
立樹はどんどんとハワイでのウエディングのことを調べて行く。
そう言って立樹はばつが悪そうに笑った。
いつか歳を取ったときに結婚式の写真を見たら2人でそのときのことを振り返って幸せな気分を感じることができるだろう。
これが、ただ同棲で終わらせたら何もない。パートナーシップ宣誓をした日だけだ。
今の幸せを将来も感じたい。そう思った。
立樹と色々考えて海の見えるガーデンウエディングにすることにした。
そして最後まで厳かなチャペルでの式も捨てきれなかったから、ウエディングフォトでチャペルフォトを組み入れて貰うことにして、チャペルでの式を疑似体験する。もちろんサンセットビーチでも撮って貰う。これが2人で決めた式だ。
立樹はなんでも、俺のしたいことを優先する。それは嬉しいけど、これは俺と立樹の結婚式なんだから俺のしたいことじゃなくて俺たちのしたいことじゃなきゃ意味がない。それを立樹に言い聞かせた。
そんな感じで2人で決めた結婚式は3ヶ月後だ。
金曜日にパートナーシップ宣誓をし、その足でハワイへと飛ぶ。
式にはそれぞれの家族だけにした。兄さんに結婚式に出てよと言ったら仕事があるのに!と言われたけど、お義姉さんのハワイに行きたいとの一言で出てくれることになった。
それでいいのか? と思ったけど、夫婦仲はいいからいいんだろうな。
立樹の方もご両親に弟さんが出てくれることになっている。
こんな感じで俺の側も立樹の側も家族揃っての式を挙げられることになった。
女性なら結婚式までの間エステに通ったりするのだろうが男である俺たちはなにもすることはなく、ただ1週間の休みを取るために仕事をするだけだ。
ただ、立樹は主任という立場にあるのでちょっと大変だったみたいだけど、係長さんが優しくてなんとかなりそうだと話していた。
そして今日はあきママに結婚式を挙げるという報告に来た。
今回の結婚式というのはママのアドバイスがあるので、お土産は忘れない。後は大翔にも忘れない。俺の泣き言をいつも聞いてくれていたから。
周りの人の支えがあって、今回の結婚式になったと思っている。
そして、結婚式をやろうと言ってくれた立樹には感謝だ。いくらあきママがアドバイスしたって、それをやろうと言ってくれたのは立樹なのだから。
結婚式もウエディングフォトも楽しみだ。
金曜日の夜、2人で晩酌をしていると立樹がそう言った。
立樹は楽しそうな顔をしているけど、その表情の意味がわからない。わからないけど、なにか欲しいものがあるんだろうと思って頷いた。
楽しそうな顔をしているということは楽しいことなんだろう。そう思ってそれ以上考えることはなかった。
でも、もう少し考えるべきだった。いや、訊くべきだった。そうしたらもう少し心の準備ができたのに。
俺たちがそう言い合っているのは高級宝飾店の前だ。
昨日、立樹が買いたいものがあると言っていたお店がここで、立樹は一言こう言った。
確かに結婚指輪は買っていなかった。というより結婚指輪の存在をすっかり忘れていた。
それを思い出して買おうとするのはいい。でも、お店で2人で選ぶのは無理だろう。
でも、立樹は聞く耳を持ってくれない。
我ながらナイスアイデア! と思ったけれど立樹に却下された。
俺が完全に及び腰になっているのを見て、立樹は俺の手を掴んで店内へ入っていく。
こんなに強引な立樹は初めてだ。
確かにここで言い合っているのは目立つし恥ずかしい。でも、店内へ入ったら2人で結婚指輪を見なきゃいけない。つまり俺たち2人がカップルなのがわかってしまう。
俺は根っからのゲイだけど、男同士でなにかをやったりするということは恥ずかしくて苦手だ。
まして結婚指輪なんて言ったら、俺と立樹がカップルで結婚式を挙げるということがわかってしまう。そんな恥ずかしいことを出来るわけがない。
でも、立樹は俺の手を離してくれない。
それはわかるけれど、恥ずかしいというのは変わらない。でも、立樹が言っていることが正しいので俺の方が分が悪い。
立樹のまともな意見に、俺は恥ずかしさを忘れて結婚指輪を選ぶことになった。
立樹が結婚指輪を見たいと言うと、男2人で来店しているのに店員さんは奇異の目を向けることなく、普通のことのように対応してくれた。
そして立樹も堂々としている。堂々としてればなにかを言われたりはしないのかな? と考える。
立樹が当たり前のように俺に訊いてくるので、店員さんも普通の態度なので俺も開き直ることにした。
立樹が指さしたのはフォルムがウエーブになっているお洒落なものだった。
ただのかまぼこタイプのでは面白くないのでいいかもしれない。
でも内側を見るとダイヤが一粒埋まっていた。
すると店員さんはそれをスッと分けて置いた。
そして俺たちはまた他のリングを見ていく。
女性じゃないからキラキラしたダイヤに興味がない。それよりも職場でつけても華美にならないシンプルなものの方がいい。
そして、店員さんはまたそれをスッと分ける。後で見やすいようにだ。
他にもいくつか候補をあげて、分けられたものの中から再度見ていく。
そう言われて試着してみる。試着してみるとまた印象が違った。
その中でいいな、と思ったのは最初に選んだ2つのものだった。
プラチナがウエーブになっているものとプラチナとゴールドが捻ってあるものだ。
そう言って俺は最初に立樹が選んだフォルムがウエーブになったものをはめてみた。外側はほんとにシンプルで、でも内側にはダイヤが一粒埋まっている。
プラチナとゴールドが捻ってあるものもお洒落だけど、なんだか飽きが来そうな気がした。
そして内側に刻印ができるというので立樹と色々言葉を出し合って、”I was Born to Love You”という言葉を刻印して貰うことにした。
もちろん、ダイヤは一粒埋まっている。
そしていつ頃出来るかと訊くと1ヶ月ほどかかるということで、ハワイへ出発する少し前にはできるらしい。
結婚指輪がこんなに時間がかかるなんて知らなかった。サイズがあえばいいんじゃないかと考えていた。
この辺は立樹が一度結婚したことがあるからわかったことだろうなと思う。でも、そんなことを考えて胸が痛む。今はもう立樹は俺のものなのに。未だにあの結婚式に参列したことは辛い出来事だ。
そんなことを考えて気持ちが沈みかけたので頭を振って、気持ちを切り替える。
立樹は心配そうに俺を見る。
いつもそうだ。いつも俺のことを最優先して、ちょっとでも様子がおかしいと心配する。思えば省吾さんもそうだった。
そうして1ヶ月付き合った省吾さんのことを思い出す。あの後、いい人に出会えただろうか。結局俺は好きになれなかったけど、俺なんかに執着せずに幸せになって欲しいと思う。
あのとき俺は立樹のことを諦めなければと思って悲しかったけど、今はそんな忘れようとした立樹が隣にいる。そのことが夢のようだった。
いや、隣にいるだけでも夢のようなのに結婚指輪まで買いに来た。嘘のように幸せだ。
俺が色んなことを考えている間に立樹は購入のことをあれこれとお店の人と話していたようだ。俺のしたのって選んだだけだ。
そう言って甘い顔で笑う。最近は見慣れてきたものの、この表情には尻がむず痒くなってくる。恋人になったばかりの頃から変わらない。
そんな立樹が好きだと思う。それを今伝えたくて、立樹の耳元で小さな声で、好きだよと言うと、立樹は声を潜めることもなく堂々と俺も好きだよと言って来た。
イケメンがそんな言葉を言うものだから周囲の人が俺のことを見て来たから、俺は立ち止まって両手で顔を覆ってしまった。
そう言って俺は立樹を置いて歩き出した。