EHEU ANELA

遠回りのしあわせ〜You're my only

君との結婚式1

同性での結婚式やウエディングフォトを撮ってくれるところは意外とあった。

チャペルでの式とガーデンウエディングどちらがいいんだろう。


「式はどこがいいか迷うね」
「うん。景色が綺麗なところがいいな。そうしたらガーデンウエディングになるのかな」
「立樹はチャペルで式挙げたから、今度はガーデンウエディングの方がいい?」
「俺のことは考えなくていいよ。悠がいいところ選びな」
「それはダメ! だって2人のことなんだよ? 2人で選ばなきゃ」
「そっか。そうだな」
「ウエディングフォトはスタジオより屋外がいい」
「それこそ景色の綺麗なところがいいんじゃないか?」
「そうだね。でもこの辺じゃウエディングフォトに最適なところってないんじゃない?」
「まぁ、難しいかな?」

ネットで見ながらああでもないこうでもないと言いながら探すのは大変だけど楽しい。

一生に一度のことだから妥協はしたくない。


「式もフォトもいっそ海外に行くか」
「ビーチなんていいかもしれない。新婚旅行兼ねてさ」
「海外ならどこがいい?」
「ハワイ!」
「ハワイか。新婚旅行にぴったりだな」
「それに式に出席してくれる人もハワイなら行きやすいし日本語も通じるところ多いし、いいんじゃないかな?」
「そうだな。それならハワイで探すか。ハワイだってチャペルでの式とガーデンウエディングあるだろうから」
「海の見えるところがいいなー」

海の見えるチャペルやガーデンでのウエディングとか考えただけで綺麗でいいだろうなと思った。

フォトだってビーチで撮ることもできるだろうし。考えただけで楽しみだ。


「そうしたら海外での挙式を扱っているところがいいな」
「そういうところで同性結婚式扱ってくれるところってあるのかな」
「んー」

立樹がネットで検索している。


「ああ、あった。ここなら式もフォトも対応してくれるって」
「どこ?」

パソコンをのぞき込むとハワイでの挙式とガーデンパーティー、ウエディングフォトの写真がたくさんあってわくわくしてくる。

もっとも、それは全てノンケのカップルだけど。

そうだよな。普通はノンケのカップルの海外ウエディングで、ゲイの海外ウエディングはそのうちのひとつでしかない。


「悠、ハワイいいかもしれないよ」
「なんで?」
「手続きをすれば結婚証明書が貰えるらしい。もちろん同性婚でも貰える。日本に住んでる俺たちにとってはなんの法的効力ももたないけど、でも良くないか?」
「それいい! 結婚証明書とウエディングフォトがあれば、結婚したって感じする!」
「だろ」
  

立樹はどんどんとハワイでのウエディングのことを調べて行く。


「ウエディングフォトはサンセットビーチも可能らしいよ」
「それがいい! サンセットって綺麗じゃん」
「昼間から夕方にかけて写真撮れたらいいよな」
「うん。なんかすっごい楽しみになってきた」
「俺も」
「ゲイでこんなことできるって思わなかったよ。同棲して終わりだと思ってた」
「うん。でも、確かに法的には認められなくても同性カップルで式を挙げたりしてる人も少ないかもしれないけどいるんだからさ、できることはした方が良くない?」
「そうだね。少ないながらに対応してくれるところあるんだしね」
「そう。一生に一度のことだよ。まぁ俺は二度目だけど」

そう言って立樹はばつが悪そうに笑った。

 
「でも、俺との式で最後でしょう?」
「そうだな。悠以外の人には惹かれないから。いい式にしたいな」

いつか歳を取ったときに結婚式の写真を見たら2人でそのときのことを振り返って幸せな気分を感じることができるだろう。

これが、ただ同棲で終わらせたら何もない。パートナーシップ宣誓をした日だけだ。

今の幸せを将来も感じたい。そう思った。

立樹と色々考えて海の見えるガーデンウエディングにすることにした。

そして最後まで厳かなチャペルでの式も捨てきれなかったから、ウエディングフォトでチャペルフォトを組み入れて貰うことにして、チャペルでの式を疑似体験する。もちろんサンセットビーチでも撮って貰う。これが2人で決めた式だ。

立樹はなんでも、俺のしたいことを優先する。それは嬉しいけど、これは俺と立樹の結婚式なんだから俺のしたいことじゃなくて俺たちのしたいことじゃなきゃ意味がない。それを立樹に言い聞かせた。


「俺、女の子じゃないからね。だから花嫁が主役とかなし。主役は俺と立樹の2人なの。だから俺のしたいことじゃなくて、俺と立樹のしたいことだから」
「わかったよ。じゃあ悠は白のタキシード着て」
「は?」
「俺のしたいこと言ってもいいんだろ? だから悠は白のタキシードで。俺が見たいから」
「なにそれ」
「絶対に似合うから」
「じゃあ立樹の衣装は俺が決めていい?」
「いいよ。あ、サテンシルバーのフロックコートはナシで」
「うん、違う。ネイビーブルーのショートフロックコートが見たい」
「わかった。じゃあそれにするよ」
「ん? 立樹のしたいことって言ったはずなのに、俺の希望も言っちゃってるじゃん」
「いいんじゃないか? 2人のしたいことで」
「そっか。そうだね。俺だけのしたいことじゃないもんね」

そんな感じで2人で決めた結婚式は3ヶ月後だ。

金曜日にパートナーシップ宣誓をし、その足でハワイへと飛ぶ。

式にはそれぞれの家族だけにした。兄さんに結婚式に出てよと言ったら仕事があるのに!と言われたけど、お義姉さんのハワイに行きたいとの一言で出てくれることになった。

それでいいのか? と思ったけど、夫婦仲はいいからいいんだろうな。

立樹の方もご両親に弟さんが出てくれることになっている。

こんな感じで俺の側も立樹の側も家族揃っての式を挙げられることになった。

女性なら結婚式までの間エステに通ったりするのだろうが男である俺たちはなにもすることはなく、ただ1週間の休みを取るために仕事をするだけだ。

ただ、立樹は主任という立場にあるのでちょっと大変だったみたいだけど、係長さんが優しくてなんとかなりそうだと話していた。

そして今日はあきママに結婚式を挙げるという報告に来た。


「まぁ! パートナーシップ宣誓だけじゃ飽き足らずに式まで挙げるの! しかも海外だなんて。やるじゃない、立樹」
「ママに言われた通り式挙げて、ウエディングフォトも撮って来ますよ」
「立樹、格好良いでしょうねー」
「ちょっと、ママ。立樹は俺のだからね!」
「イケメンはみんなのものよ」
「他のイケメンはみんなのものでも、立樹は俺のものなの!」
「はいはい。あんたのものですよ。って冗談はさておき、もっとゲイの間で結婚式を挙げる人が増えればいいのにね。お客さんの中にいないわけじゃないけど少ないのよね」
「戸籍上なにも変わらないから、そこで諦めちゃってるんじゃないですか」
「そうねー。でも、あんたたちの場合は立樹がノンケだったから良かったのかもしれないわね。パートナーシップ宣誓を結婚式と思えば式を挙げるのも抵抗なかったでしょう?」
「そうですね。逆にやらない方が違和感あるかも」
「良かったわね、悠」
「うん。ママ、アドバイスありがとうね」
「いいえー。お土産だけ待っているわ」
「うん、買ってくるよ」
「あ、写真だけは見せてね。あんたたちの幸せな顔見たいわ」
「うん!」

今回の結婚式というのはママのアドバイスがあるので、お土産は忘れない。後は大翔にも忘れない。俺の泣き言をいつも聞いてくれていたから。

周りの人の支えがあって、今回の結婚式になったと思っている。

そして、結婚式をやろうと言ってくれた立樹には感謝だ。いくらあきママがアドバイスしたって、それをやろうと言ってくれたのは立樹なのだから。

結婚式もウエディングフォトも楽しみだ。


「悠、明日買い物に行こう」

金曜日の夜、2人で晩酌をしていると立樹がそう言った。


「買い物? いいけど、なにを買うの?」
「それは明日のお楽しみ」

立樹は楽しそうな顔をしているけど、その表情の意味がわからない。わからないけど、なにか欲しいものがあるんだろうと思って頷いた。

楽しそうな顔をしているということは楽しいことなんだろう。そう思ってそれ以上考えることはなかった。

でも、もう少し考えるべきだった。いや、訊くべきだった。そうしたらもう少し心の準備ができたのに。


「立樹、俺は入れないよ。だから立樹1人で買ってきて」
「それじゃあ2人で選べないだろ」
「いや、俺はどれでもいいから。立樹に任せるから」
「2人の結婚なんだから2人で決めなきゃなんだろ。式を決めるときにそう言ったのは悠だよ」
「そうだけど、でもこれは違うというか」

俺たちがそう言い合っているのは高級宝飾店の前だ。

昨日、立樹が買いたいものがあると言っていたお店がここで、立樹は一言こう言った。


「結婚指輪買ってなかったから買おう」

確かに結婚指輪は買っていなかった。というより結婚指輪の存在をすっかり忘れていた。

それを思い出して買おうとするのはいい。でも、お店で2人で選ぶのは無理だろう。

でも、立樹は聞く耳を持ってくれない。


「それはいいけど、立樹1人で行って来て。俺はそこのカフェで待ってるから。でなかったら、パンフレット! そう。パンフレット貰ってきてくれたら2人で選べるよ」

我ながらナイスアイデア! と思ったけれど立樹に却下された。


「サイズはどうするの」
「えっと、サイズ直しとか……」
「そんなことしてたらハワイに行くまでに間に合わないよ」
「それは、ほら、後でもいいじゃん」
「なに言ってるの。ほら、行くよ」

俺が完全に及び腰になっているのを見て、立樹は俺の手を掴んで店内へ入っていく。

こんなに強引な立樹は初めてだ。


「立樹、恥ずかしいよ。手、離して」
「手、離したら逃げるだろ」
「だって、2人で選ぶなんて無理だよ。そんなの恥ずかしい」
「ここで言い合ってる方が恥ずかしいと思うよ」
「そうかもしれないけど……」

確かにここで言い合っているのは目立つし恥ずかしい。でも、店内へ入ったら2人で結婚指輪を見なきゃいけない。つまり俺たち2人がカップルなのがわかってしまう。

俺は根っからのゲイだけど、男同士でなにかをやったりするということは恥ずかしくて苦手だ。

まして結婚指輪なんて言ったら、俺と立樹がカップルで結婚式を挙げるということがわかってしまう。そんな恥ずかしいことを出来るわけがない。

でも、立樹は俺の手を離してくれない。


「とにかく2人で選ぶよ。俺、1人では選ばない。結婚指輪はそんなものじゃない。簡単に買い換えるようなものじゃないんだからな」

それはわかるけれど、恥ずかしいというのは変わらない。でも、立樹が言っていることが正しいので俺の方が分が悪い。


「こんなところで話しているうちにさっさと選んで帰った方が恥ずかしくないんじゃないの? その方が早くここから立ち去れるよ」
「じゃあ早く選んで帰ろう」

立樹のまともな意見に、俺は恥ずかしさを忘れて結婚指輪を選ぶことになった。


「こちらがウエディングリングになります」

立樹が結婚指輪を見たいと言うと、男2人で来店しているのに店員さんは奇異の目を向けることなく、普通のことのように対応してくれた。

そして立樹も堂々としている。堂々としてればなにかを言われたりはしないのかな? と考える。


「悠、どれがいい?」

立樹が当たり前のように俺に訊いてくるので、店員さんも普通の態度なので俺も開き直ることにした。


「シンプルなのがいい」
「だとするとこの辺かな。あ、これどう?」

立樹が指さしたのはフォルムがウエーブになっているお洒落なものだった。

ただのかまぼこタイプのでは面白くないのでいいかもしれない。

でも内側を見るとダイヤが一粒埋まっていた。


「お洒落だね」

すると店員さんはそれをスッと分けて置いた。

そして俺たちはまた他のリングを見ていく。


「あ、これは?」
「どれ?」
「このプラチナとゴールドが捻ってあるやつ」
「これ?」
「そう」

女性じゃないからキラキラしたダイヤに興味がない。それよりも職場でつけても華美にならないシンプルなものの方がいい。

そして、店員さんはまたそれをスッと分ける。後で見やすいようにだ。

他にもいくつか候補をあげて、分けられたものの中から再度見ていく。


「よろしければご試着ください」

そう言われて試着してみる。試着してみるとまた印象が違った。

その中でいいな、と思ったのは最初に選んだ2つのものだった。

プラチナがウエーブになっているものとプラチナとゴールドが捻ってあるものだ。


「迷うね」
「そうだな」
「でも、こっちの方がいいかなー?」

そう言って俺は最初に立樹が選んだフォルムがウエーブになったものをはめてみた。外側はほんとにシンプルで、でも内側にはダイヤが一粒埋まっている。


「これなら飽きがこないんじゃないか」

プラチナとゴールドが捻ってあるものもお洒落だけど、なんだか飽きが来そうな気がした。


「じゃあ、それにする?」
「そうだね」

そして内側に刻印ができるというので立樹と色々言葉を出し合って、”I was Born to Love You”という言葉を刻印して貰うことにした。

もちろん、ダイヤは一粒埋まっている。

そしていつ頃出来るかと訊くと1ヶ月ほどかかるということで、ハワイへ出発する少し前にはできるらしい。

結婚指輪がこんなに時間がかかるなんて知らなかった。サイズがあえばいいんじゃないかと考えていた。

この辺は立樹が一度結婚したことがあるからわかったことだろうなと思う。でも、そんなことを考えて胸が痛む。今はもう立樹は俺のものなのに。未だにあの結婚式に参列したことは辛い出来事だ。

そんなことを考えて気持ちが沈みかけたので頭を振って、気持ちを切り替える。


「悠? どうした?」
「え? あぁ、なんでもない」
「頭でも痛い?」
「ううん、痛くないよ。大丈夫」
「もう終わりだからちょっと待ってて」

立樹は心配そうに俺を見る。

いつもそうだ。いつも俺のことを最優先して、ちょっとでも様子がおかしいと心配する。思えば省吾さんもそうだった。

そうして1ヶ月付き合った省吾さんのことを思い出す。あの後、いい人に出会えただろうか。結局俺は好きになれなかったけど、俺なんかに執着せずに幸せになって欲しいと思う。

あのとき俺は立樹のことを諦めなければと思って悲しかったけど、今はそんな忘れようとした立樹が隣にいる。そのことが夢のようだった。

いや、隣にいるだけでも夢のようなのに結婚指輪まで買いに来た。嘘のように幸せだ。


「じゃあよろしくお願いします」

俺が色んなことを考えている間に立樹は購入のことをあれこれとお店の人と話していたようだ。俺のしたのって選んだだけだ。


「ごめん。何から何まで。俺なにもしてない」
「選んだだろ。それでいいんだよ。それより頭痛いのは大丈夫? 薬買いに行こうか?」
「違う違う。頭痛いわけじゃないから大丈夫だよ」
「そうか? それなら良かった」

そう言って甘い顔で笑う。最近は見慣れてきたものの、この表情には尻がむず痒くなってくる。恋人になったばかりの頃から変わらない。

そんな立樹が好きだと思う。それを今伝えたくて、立樹の耳元で小さな声で、好きだよと言うと、立樹は声を潜めることもなく堂々と俺も好きだよと言って来た。

イケメンがそんな言葉を言うものだから周囲の人が俺のことを見て来たから、俺は立ち止まって両手で顔を覆ってしまった。


「ほら、そんな可愛いことしないの。そんなことしてると、ここでキスするよ」
「いや、結構です!」

そう言って俺は立樹を置いて歩き出した。