EHEU ANELA

神様、DV彼氏と別れて幸せになれますか?

心がしょんぼり

律くんが帰った後、さっきまでいた人の温もりが消えてしまったことで寂しさを感じてしまったりもしたが、律くんとは友人でもなんでもない。単なるご近所さんだ。

そんな彼がいなくなったからと言って寂しさを感じるなんておかしいのに、昨夜ほんの少し一緒にいたせいでどこか親近感を覚えてしまったからなのだろうか。

友人でもないから律くんが今何をしているのか、同居の彼とはどういった関係なのか。はたまた、また会いたいなど思ったところでどうしようもない。

連絡先なんて交換していないし、まさか会いたいと思ったからと言って彼の住む部屋のインターホンを鳴らすわけにはいかない。

昨夜一緒に過ごしたことは事実なのに、まるで幻のようにすら感じる。本当にあれはあったことなのだろうか。そんなことを考える。

そんなことを考えている自分に問いかける。なんでそんなに彼のことが気になる? 彼が出ていった玄関をドアが閉まるまでじっと見ていたのはなぜ? 彼の笑顔から目が離せなかったのはなぜ? そんなことを考えてはいけないと思ったのはなぜ? 答えは出ている。彼のことが気になるから。

元彼と別れて2ヶ月。特に出会いを求めて行動を起こしたことはない。もう少し1人でいたいと思っていたからだ。

でも、そこで律くんと出会った。認めよう。俺は律くんのことが気になっている。

しかし、気になっていると言ったって律くんがゲイなのかどうかはわからない。

律くんに暴力を振るっていたあの彼が律くんとどういった関係なのかわからないからだ。

家族なのか、恋人なのか。

一緒に住む関係と言えば、家族、友人、恋人の3パターンがある。でも、暴力を振るわれてまで一緒に住んでいるとなると友人とは考えられない。大体、友人に暴力を振るう人間はいないだろう。だから友人だというのはない。

残るは家族か恋人か。

でも、このマンションの間取りを考えると家族ということは正直考えづらい。なぜならここは1LDKなので単身者向けで、1人でないとしたら新婚カップルくらいだ。だって部屋は一つしかないのだから。

となると残るは恋人ということになる。

昨夜はそんなに身近にゲイがいるとは思えないと否定したけれど、冷静に考えればあれは律くんの恋人、という結論になるのが自然な考えだ。

だとしたら、いくら律くんのことが気になったってどうしようもない。端から望みのない恋ということになる。

そうだ。暴力を振るわれていた人を見過ごすことができなくて手当をしてあげた。そして行く宛がなかったので一晩の宿を提供した。それだけのことだ。それ以上でも以下でもない。恋するような相手じゃない。

そう考えると少し寂しいけれど、これ以上気持ちが大きくなるのは防げるだろう。

でも、そんなに簡単に割り切れるわけでもないことはわかっている。けれど、そうしないと悲しいのだ。だから、そう思うことにした。


律くんとの再会は早かった。あの日から一週間経った週末。仕事から帰ると律くんが渡り廊下の手摺りに掴まってよろよろと立ち上がるところに出くわした。

前回のように蹴られているところを見たわけではないけれど、力なく手摺りに掴まっているのを見れば、今さっきまで暴力を振るわれていたことは間違いない。


「大丈夫?」

俺が声をかけて初めて、俺の存在に気がついたようだ。


「直樹さん……」
「また蹴られたりなんかしたの?」

そう訊くと律くんは返事の代わりに小さく悲しげに笑った。その顔が本当に悲しくてインターホンを押して文句を言いたい気持ちになった。もちろん、事情を知らない第三者が口を挟めることではないけれど。


「どこか痛い?」
「ちょっと……」
「うちに行って湿布貼ろう」
「でも……」
「遠慮だったらいらないよ。俺の家に来るのが嫌なのなら無理強いはできないけど」
「いえ。嫌なわけじゃなくて。迷惑をかけてしまうから」
「迷惑なんてことはないよ。そんな理由なら行こう」

半ば強引に言ってうちへ連れて行く。律くんもためらいながらも後をついて来ているのがわかった。


「また帰ってくるなって言われた?」
「あ、はい……」
「じゃあ、またうちに泊まればいいよ」
「でも、直樹さんだって予定があるでしょう? 彼女が来るとか」
「あぁ、その心配ならいらないから。先週言ったでしょう。今は恋人いないから」
「いいんですか?」
「いいから言ってるんだよ。あ、夕食食べた?」
「あ、はい」
「俺、食べてないんだよね。そしたらちょっと食べさせて貰っていい? お腹空いちゃって」
「あ、俺に気にせず食べてください」
「そう? ごめんね。じゃあ、その間にシャワー浴びておいでよ。その間に食べちゃうから。で、シャワーからあがったら湿布を貼ろう」
「はい」

そう言って律くんをシャワーに押し込んで、俺はダイニングに座り夕食のコンビニ弁当を胃に流し込んだ。

そうだ。今日は替えの下着がないけれど大丈夫だろうか? そう思っていると律くんはシャワーを浴びて戻ってきた。


「ごめんね。下着の替えなくて」
「あぁ、いえ。気にしないでください。ネカフェに行くつもりだったから、そうしたら下着を替えるどころかシャワーも浴びれないので。シャワー浴びれただけ感謝です」
「そう? そう言って貰えるならいいけど。なにか飲む? ブラックコーヒーかスティックのカフェオレ、お茶があるけどなにがいい?」
「ありがとうございます。じゃあカフェオレで」
「了解」

キッチンの上の棚からカフェオレのスティックコーヒーを取り、カップに入れてお湯を注ぐ。俺も同じにカフェオレにした。


「はい。はいったよ。熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます」
「これ飲んだら湿布貼ろうね」
「あ! 遅くなってしまったけど、今日はお金あるので先週のピザ代と湿布代払います」
「そんなのいらないよ。言ったでしょう」
「でも……」

俺がいらないと言っても律くんは気になるようだ。


「そしたらピザの分だけ貰おうかな?」
「はい!」

ピザの半額分を貰うと、律くんはホッとしたような顔をしている。本当にお金なんていらなかったのに。でも、それをよしとしない律くんはやはり真面目な子だなと思う。

そんなところも好ましいな、と思う。思ったところでどうにもならないけれど。それでも、そう感じて好感度はあがっていく。


律くんが暴力を振るわれるのは変わらないようで、その後もうちで湿布を貼って一晩泊めてあげるというのを何度か繰り返した。

事情を知らないから口を挟めないけれど、そこまで暴力を振るわれるのなら家を出ていけばいいのにと思ってしまう。

暴力を振るわれてまで一緒にいたいのだろうか。体中に痣を作ってまで。

律くんに好意を持っている俺としたら家を出ていけばいいのにと思う。

暴力を振るわれているのを見るのは辛い。

でも、暴力を振るっている彼も俺に見られているのを知っていながら暴力をやめないのは驚きだ。

それに律くんが翌日、湿布を貼った状態で帰ってくるのだから、誰かに手当して貰っているのもわかるだろう。

それでも暴力は変わらない。律くんに何か非があって暴力を振るわれているのだろうか。だとしたら目撃されていても暴力は変わらないかもしれない。

本当は律くんに忠告をしたい。逃げた方がいいと。でも彼らの事情を何も知らないから何も言えないのだ。

そしてある週末。ここ2週間くらい律くんを見ていなかった。

暴力を振るわれていないのか、それとも時間が違うのかは知らない。できれば暴力を振るわれていなければ良いけれど。

でもそうなると律くんに会うことはできなくて複雑だと思っていたとき、思いがけないところで律くんを見かけた。

部屋着がだいぶヨレてきたので新しいのを買おうとショッピングモールに行ったときに、律くんがあの彼と一緒にいるのを見かけた。

律くんは暴力を振るっているあの彼の横で、楽しそうな笑顔を浮かべていた。その笑顔は、あぁ、あんなふうに笑う子なんだな、と思わず見惚れてしまうくらいに綺麗だった。

そして、その表情を見てやっぱり二人は恋人だったのだとわかった。

家族に対してあんな表情を見せはしない。

そうか。恋人か。だからあんなに暴力を振るわれていても出ていかないのか。家族ならとっくに出ていっているはずだ。

俺はそのまま通り過ぎることもできるし、そうすべきなのかもしれないけれど、つい声をかけてしまった。


「律くん」

俺が律くんの名前を呼ぶと、律くんと隣の彼とがこちらを向いた。

律くんは俺と会ったことに純粋に驚いていたが、隣の彼は忌々しげに俺を見る。

彼が律くんに暴力を振るっているのを俺は知っていて、恐らく律くんに湿布を貼っているのは俺だと気づいているのかもしれない。

そんな男とばったり会ったって嬉しくないよなと思う。肝心の律くんは隣の彼がそんな顔をしているとは思わないだろうけれど。


「直樹さん! こんなところで奇遇ですね。買い物ですか?」

そういう律くんの顔は驚いていると同時に少し気まずい顔をしている。

それはそうだろう。俺は律くんが隣の彼から暴力を振るわれているのを知っているのだから。

でも俺は敢えて知らないふりをする。


「ちょっと部屋着を買い替えようと思ってね」
「そうなんですね。あ、賢人。こちら直樹さんだよ。うちの階の一番奥の家に住んでる人。すごく親切なんだ。直樹さん、同居人の賢人です」
「どうも?」

賢人と呼ばれた彼は小さく頭を下げながらも上目で俺を見る。ほんとは挨拶なんてしたくないだろう。ただ律くんの手前するしかないだけで。


「高地です。よろしく」

俺も挨拶を返す。笑顔で。

ほんとは笑顔でなんて返したくない。でも律くんが見ている手前、無下にもできないだけで。


「律くんも買い物?」
「ウィンドウショッピングです」
「そうなんだ? 今日はお天気もいいし家にいたくないよね」
「そうなんです。そのついででここまで来たんですけど」
「そうなんだ? お友達といるところ声かけてごめんね」
「あ、いえ。全然」
「じゃあまたね」
「あ、はい」

俺は去っていく2人をじっと見ていた。

俺の律くんに対する好意は少ししょんぼりしたけれど、それでなくなることはないようだった。

あれだけ暴力を振るわれても休みの日にこうやって一緒に出かけるくらいだから、きっと律くんは彼のことが好きなんだろう。

だけど、彼の方はどうなんだろう。律くんに対して気持ちはあるのだろうか? それとも、暴力を振るうだけでなく、出ていけと言えるくらいだから律くんに対して気持ちは残っているのかわからない。

出ていけと言っても翌日には帰ってこい、と言うのだから全く気持ちがないということはないだろう。

少しは律くんに情はあるということだろうけど、だとしたらどうして暴力なんて振るえるのかわからない。

好きな人に暴力を振るうということは俺にとっては理解できないことだった。





「痛っ」
「あ、すいません」

お昼の社食は満員電車のように混み合っている。安くて美味しいから社食を利用する人が多いのだ。

だから人に軽くぶつかってしまうことは普通にある。

もちろん軽くぶつかるだけだから、普通なら痛いということはない。ないのだけれど、俺の場合はある。それは背中が痣でいっぱいだからだ。

直樹さんは初めて俺の背中を見たときに息をのんでいたから、よっぽどなのだろう。自分では見えないけれど。

今もぶつかったというより触れたと言っていいほど軽くだった。だけど新しくできた痣に触れてしまって痛かった。

そして俺が痛がると一緒にいた末澤が眉を顰める。


「またか」
「あ、うん……」

そう返事を返すと眉間に深い皺を刻む。

とりあえず空いていたテーブルにトレーを置き座る。


「いい加減にしろよ。ってお前が悪い訳じゃないけどさ。でも逃げないのはお前が悪いだろ」

末澤は同期で入社以来仲良くしている。それゆえに言いたいこともズバっという。毒舌のようだけれど、俺のためを思って言ってくれているから不快にはならない。

ただ、しょっちゅう同じことで怒られるのは、さすがにたまらない。

怒られるのは俺が暴力を振るわれているにも関わらず恋人と別れないからだ。


「もういい加減別れて出てけよ。一人暮らしできないほど手取り低いわけじゃないだろ。現に俺だって一人暮らししてるんだし」
「そうなんだけど……」
「まさか、まだ好きだとか言わないよな」
「うん」
「うん、ってどっちだよ」
「さすがに前のようにすごく好きっていうことはないかな。でも嫌いにはなれないんだ」
「はぁ? 体中痣だらけになるくらい暴力振るわれて、それでもまだそんなこと言うわけ?」

最近の末澤は俺に賢人と別れろとばかり言っている。いや、これだけ痣ができるほど暴力を振るわれているんだから言われても当然ではあるけれど。

もしこれが逆の立場だったら俺も別れろって言うだろう。

それはわかっているけれど、嫌いにはなれないんだ。

恋人の賢人とは付き合って3年になるが、暴力を振るわれるようになったのは1年くらい前からで、それまではとても優しかった。俺のことも大切にしてくれていた。

そんな思い出があるから、どうしても嫌いにはなれない。バカかもしれないけど。

 
「そういえば最近湿布貼ってるみたいじゃん。前は湿布も貼らなかったのに」
「あぁ。貼ってるというか貼って貰ってる」
「貼って貰ってる? 誰に?」

不思議がる末澤を見て、そういえば直樹さんのことを話してなかったな、と思い出す。


「マンションの同じ階の人で、一度玄関から蹴り出されるところみられちゃって。それから心配して湿布貼って、一晩泊めて貰ってるんだ」
「何それ。めっちゃいい人じゃん。暴力男なんかさっさと別れて、その人に乗り換えたらいいのに」

そう……なるよな。これが反対の立場なら絶対にそう言う。

現に俺自身、直樹さんに好意は抱いてる。はっきり好きとか言えるほどじゃないけど、それでも穏やかで優しい直樹さんに好意を抱くのは当然とも言えた。

それでも優しかった賢人が暴力を振るうようになったくらいだから、もしかしたら直樹さんだってそうなるかもしれない。

そう思うと、その好意は大きく膨らませずに今のままでいる方がいい気がする。

賢人が暴力を振るうようになったのは係長に昇進してからだった。

それまでの自由な立場から人を纏めなくてはいけない立場になってストレスが溜まるようになってからだった。

会った日に聞いたけど、直樹さんも賢人と同じ係長だと言っていた。だとしたら、ストレスが溜まることはあるだろう。そうしたら賢人のように暴力を振るうこともあるかもしれない。

末澤にそう言うと、バカかと言われた。


「あのさ。いくらストレス溜まったからって暴力振るう人間なんて少ないんだよ。普通は酒に逃げたり、女なら甘いものとかに逃げたりするんだよ。だから、その人が暴力を振るうかもなんて考える必要はないんだよ」

冷静に考えればそうなのかもしれない。でも、俺にしてみたら賢人だって暴力を振るうようになるとは思えなかったのに、いつの間にか蹴られるようになっていた。

ただ賢人は顔だけは殴らない。だから暴力と言っても背中や腹を蹴ることになる。殴られないから当然だけど顔に痣がつくことはない。だから誰も俺がDVを受けているとは思わないはずだ。

ではなんで末澤が知っているのかと言えば、ぶつかったときに出来たばかりの痣にあたりすごく痛がったことと仲が良いからだ。

俺がDVにあっているのを知っているのは末澤と直樹さんしかいない。女性ならシェルターがあるけれど男の俺だとなんで男が来たんだろうと思うだろう。

だって世の中は男性と女性のカップルがほとんどだ。男同士のカップルなんて少ないし、嫌悪感を示す人だっているだろう。だからシェルターには行かれない。その前に賢人のことを嫌いになれていないから。逃げ出すとかは考えられない。末澤にはおかしいと言われているけれど。

もちろん、好きかどうかと訊かれたら、もう好きとは言えない。散々暴力振るわれていて好きなままではいられない。でも、嫌いではないんだ。すごく好きだったから。だから嫌いにはなれない。だから家を出ていくことはしない。末澤は出ていけと日頃から言っているけれど。

もっと決定的な何かがない限り俺からは出ていかないだろう。でも、賢人からはあるかもしれない。そんな予感がした。


週末の昼間。いつもはほとんど賢人と一緒だけど、今週は大学時代の友人の結婚式ということで昨日から地元に帰っていていない。

1人で過ごす時間なんてめちゃくちゃ久しぶりすぎて何をしたらいいのかわからない。

だから1人でカフェでお茶をしてた。

最初は映画でも観に行こうかと思ったけれど、観たい映画がなかったので行くのをやめた。でも、家にいるのも退屈で。かと行ってどこへ行けばいいのかもわからず、駅の近くのカフェでお茶をしながら外をボーっと眺めていた。

暇だなーと思う。でも、お天気もいいし家の中にいるよりはいいかなと思って外に出てきたんだ。と言ってもカフェの中にいるけれど。

人が駅に向かって歩いて、改札口に吸い込まれていく。みんなどこに行くんだろう。1人の人もいるけれど、家族連れや恋人と一緒という人も多い。

家族か。俺も久しぶりに地元に帰っても良かったかもしれない。

都内から電車で2時間程度で帰れるのに、帰るのはお盆休みと年末年始くらいで、下手したらお盆休みも帰らないことがある。

いつでも帰れるから、つい後回しにしてしまうんだ。

地元はいつも観光客で溢れているけど、観光名所のほんの少し先には落ち着いた住宅街で古い神社仏閣が多い。

歴史を感じるその街並みが俺は好きだった。

だから学生時代、好きだった科目は歴史。そしてそのまま大学では史学地理学科を専攻した。仕事は全然関係ないけれど。

そんなことをつらつらと考えていると、直樹さんが駅に向かって歩いているのが見えた。どこか出かけるのだろうか。

てっきり改札に入っていくと思ったけれど、改札口で立って電車が来るのを待っているようだ。誰かを待っているようだ。

友達でも待ってるのかな? と直樹さんを見ていると、電車が来てたくさんの人が改札口から出てくると、その中から人を探しているようだった。

そして待ち人はいたのだろう。小柄で可愛い女性のそばに歩いて行った。

誰だろう。今は恋人はいないって先週も聞いたけれど、その後で彼女ができたのだろうか。そうかもしれない。

背が高くて優しい顔立ちの直樹さんと小柄でやっぱり優しい顔立ちをしたその女性が並ぶと、とてもお似合いに見える。

そっか。彼女出来たんだな。その彼女を部屋に招くのに迎えに来たのだろう。

そう思うと胸がツキンとする。

これからは賢人に暴力を振るわれても直樹さんのところに行くのはやめよう。週末にはこうやって彼女が来ることがあるだろうから。俺がそれを邪魔したらいけない。

俺に優しく話しかけてくれる直樹さんが、その彼女に優しく話しかける。

その光景を想像するだけで、なんだか鼻の奥がツンとするけれど、それはなかったことにする。

その理由は突き詰めたらいけない気がするから。

ただ、直樹さんに彼女が出来た。その現実を受け止めるのが精一杯だった。