【春は君のとなり】コンビニの灯りと傘の下で01

 居酒屋ではイジュンの日本文化体験みたいな感じになりながら、「日本って言ったらビールだよね」と言い、イジュンは結構ビールを飲み、そして「ハイボールもだ!」と言い出してハイボールまで飲んだから、結構酔っている。俺はトマトサワーのあとはビールを2杯飲んだだけだから、俺としてはちょっと酔いが残っているけれど、イジュンほどじゃない。

「そんなんで明日大丈夫かよ。ほら、しっかり歩けよ。歩けないか?」

 そう言って俺はイジュンを見ていた。そんなに酒が弱いならセーブしろよって思うけど、楽しかったんだろう。それだとしたらいい。
 
「一晩寝れば大丈夫。ねえ、ちょっと甘いもの食べたい」
「コンビニで買えばいいだろ。そうでなくても寄りたかったくせに」
「もちろん!」

 そう言って、楽しげにコンビニに入っていく。日本のコンビニしか知らない俺は、どこが凄いのかわからないけど、イジュンは楽しみにしていたから、俺はそれに続く。

「まずは、甘い物。スイーツはどこだろう」
「奥だよ」
「あ、あそこか」

 コンビニの奥へと行くと、プリンやケーキ、団子が売っている。いつもの光景だ。だけど、イジュンには違うらしい。

「なにこれ! スイーツがこんなにあるの? ケーキまであったらカフェもパン屋さんもいらないじゃん」

 ん? カフェはわかる。カフェにスイーツは欠かせない。でも、パン屋さんってなんだ?

「なんでケーキでパン屋さんが出てくるの?」
「え? おしゃれなところにならパティスリーとかあるけど、普通はカフェかパン屋さんでしょう? 違うの?」
「カフェにケーキが売ってるのはわかるんだけど、なんでパン屋さんでケーキが売ってるの?」
「え? 日本ではパン屋さんに売ってないの? そしたらカフェしかないの? 誕生日ケーキとかどうするの。子供はケーキが楽しみなのに」
「え? ケーキってケーキ屋さんじゃないの?」
「ケーキ屋さん? それってパティスリーっていうこと?」
「パティスリーとはちょっと違うなぁ。パティシエって言われる人が作ってて高級志向なのがパティスリーって感じ? でもケーキ屋さんは町のケーキ屋さん。もちろんお洒落なケーキや焼き菓子もあるけど、ケーキ屋さんの方が身近かな。だけど、間違えてもパン屋さんでは売ってないよ。パン屋さんが売るのはパンだけだ」

 そう説明するとイジュンは目を丸くしているけれど、俺の方が目が丸くなりそうだよ。パン屋さんでケーキなんて想像もできない。

「じゃあ、家族の誕生日ケーキを買うのは?」
「普通はケーキ屋さんかな。よっぽどおしゃれならパティスリーもありかもだけど、ケーキ屋さんな気がする」
「パティスリーの立ち位置は韓国と似てるのかな? でも、その日本でいうケーキ屋さんが韓国にはない。そして、コンビニスイーツでケーキなんて少ししかない。選べないよ」
「え! じゃあおひとりさまはどうするの? ケーキ屋さんだってないんだろう? わざわざパティスリーまで行くの? それともパン屋さんにはそんなにたくさんケーキが置いてあるの?」
「いや、置いてないよ。だからそういうときはカフェなんだ」

 おひとりさまでケーキを食べたくなったらわざわざカフェまで行くの? っていうかカフェでスイーツのテイクアウトなんてできるの? 俺が1人で不思議がっていると、イジュンはイジュンで不思議らしい。

「その前に、ケーキって食べるの誕生日くらいじゃない? 女子は違うかもしれないけど」

 もしかして、韓国ってあまりケーキを食べないのかもしれない。そう思って訊いてみた。

「韓国でスイーツって言ったらなにがあるの?」
「ホットクをはじめとした伝統的スイーツが多いかな?」
「ホットクってなに?」
「黒糖やシナモン、ナッツとかが入ってて、焼くとジュワッと出てくる。あとはピンスだね」
「あ、それは知ってるかき氷だよね。綺麗に盛り付けられた」
「そうそう。あとインジョルミトーストって知ってる?」
「知らない。どんなトーストなの?」
「もちもちの餅をトーストに挟んで、きな粉とかはちみつかけたやつ。めっちゃおいしいよ。今度韓国来たら絶対食べさせる」
「餅を……パンに?なんかすごいな。想像つかないや」
「日本では伝統菓子はあまり食べないの?」
「食べるよ。実際、ここにみたらし団子とあん団子がある」
「あんはわかる。みたらしってなに?」
「甘じょっぱい味。美味しいよ。スイーツ食べたいなら、食べてみたら?」
「あとはプリン。韓国にはあまりないんだ」

 俺がそう勧めると、イジュンはみたらし団子と焼きプリンを選んでいた。うん、プリン美味しいよね。イジュンが目をキラキラさせながらコンビニ内を見ている姿を俺は見ていた。

 スイーツを選んだイジュンは店内をゆっくり見ていった。お弁当のコーナーではすごいびっくりしてた。

「こんなにお弁当の種類多いの? 韓国なんて少ししかなくて、コンビニのお弁当なんてもう食べ飽きた。こんなにお弁当やおにぎりあったら飽きることなく食べられるね。それにキムチだけのお弁当もないみたいだね。日本だと漬け物か」
「え? キムチだけのお弁当? 日本で漬け物だけのお弁当なんてないよ。だって、漬け物は漬け物でおかずじゃないじゃん」
「日本人はそうなんだろうね。韓国だと家でおかずなくてキムチとごはんだけって普通にあるよ」
「えー。信じられない。それにだからってキムチだけのお弁当って……」
「まぁ、国が違うから。サンドイッチもたくさんあるね。あ! フルーツサンドってこれなのか。SNSで有名だよね。なんでこれがスイーツの棚にないのか不思議だけど、買おう。あ、パンのコーナーもすごい! コンビニでこんなにパンが売ってるの? パン屋さんいらないね。あ、こっちはカップ麺だ。うわー。さすが種類豊富。帰る前に買って帰らなきゃ。うわー雑誌や漫画も売ってる。日本ではまだこうやって雑誌売ってるんだ。あ!コピー機がある。明日海、FAXとかもできるってほんと?」
「できるよ。他にプリントアウトもできるし、住民票も取れる」
「住民票? なに、それ?」

 住民票がわからないイジュンに詳しく説明した。すると、イジュンは目を丸くした。

「そんなに大事なものがコンビニで取れちゃうの? っていうか、そんななんでもできる機械があるのがすごい」
「他にもチケット取ったりもできるよ」
「チケットまで! 日本は先端を行ってるね。韓国では考えられない」
「ATMもあるからお金もおろせるよ」
「コンビニでないものってないんじゃない?」
「後は宅急便を送れるだけでなく、受け取ることもできる」
「韓国では送れるけど、コンビニ受取はできないな。韓国ではコンビニは漢字で便利店なのに、日本と比べたら全然便利じゃないんだな」 

 そんな話しをしてると、俺はトイレに行きたくなり、トイレに行ってくると言ってトイレで用をたして出てくると、トイレの前でイジュンがまた目を丸くしてた。

「日本のコンビニは鍵借りなくてもトイレに行けるんだね。韓国じゃあ嫌な顔されるか断られる」
「え? 普通に入れないの?」
「でも、大勢の人入るから汚いだろ?」
「……入ってきてごらん」

 俺がそう言うと、イジュンは眉をひそめて俺を見る。でも、俺がなにも言わないから、渋々トイレに入り、すぐに出てきた。目が丸くなってる。

「綺麗だった! なんで? お客さんも入れるなら汚くなりそうなのに」
「なんで人が使うと汚くなるの? 綺麗に使えばいいじゃん」
「そのセリフが出てくるのは日本人だけだと思うよ」

 イジュンのその言葉は俺にはよくわからなかった。そんな風に騒ぎながらレジへと行き、イジュンにスプーンを貰ってと言われたけれど俺はなにも言わなかった。それに対してイジュンはまた眉間に皺を寄せていたけど、店員さんが普通にスプーンを入れてくれたのを見て、また目を丸くしていた。そのくるくると変わる表情が面白くて、俺は我慢ができずに笑ってしまった。コンビニにいる数分間の時間に、イジュンはどれだけ表情がくるくるしていたことか。まぁ、でもイジュンにとっては驚くことが多かったんだろう。

「明日海、外にテーブルと椅子がないっていうことは食べられないね。どこか公園ある?」
「ここで食べれるじゃん」

 出入り口のそばのイートインスペースを指さすと、

「店内で食べられるんだ。寒い時にはありがたいね」

 外だと冬は辛いだろうな、と俺は思った。所変われば品変わるってやつだな。

「でも、コンビニはアメージングだね。マートみたいって言ってる人いたけど、コピーやFAXできる機械があるなんてマート以上だよね。しかも綺麗なトイレは使えるし。うん。アメージングって言葉しか出てこないよ。韓国のコンビニも進化して欲しい」

 日本のコンビニでアメージングなんて単語が出てくる、韓国のコンビニってどうなんだろう。そんなに品揃え悪いのかな? っていうかコンビニって漢字にすると便利店なんだろ? そのコンビニが便利じゃなかったらどうするんだ? 俺はそっちの方が不思議だった。と、俺が1人で考えていると、イジュンはみたらし団子を頬張っていた。

「明日海! 甘じょっぱくて美味しい! 団子は珍しくないけど、この味は韓国にはないな。韓国はもっとはっきりとした味付けにする。はい、明日海も食べて」

 俺も一本貰い、残りの一本はイジュンにあげた。イジュンはみたらし団子をペロリと平らげると、プリンを開けていた。そして口に入れると、幸せそうな顔をした。

「美味しい! こんなクオリティのプリンがコンビニで、しかもこんなに安い値段で食べられるって羨ましい。韓国でプリンを売ったら儲かるよ」

 イジュンがそういうプリンはスーパーやコンビニで安く売られている普通のプリンだ。ケーキ屋さんやパティスリーにあるものじゃないから、クオリティとしては普通だと思うけど、韓国では違うらしい。

「韓国のコンビニが気になる」
「つまらないよ。何もないに等しい。でも、気になるなら明日海が来たら案内するよ」

 まるで観光名所のように組み込まれた。でも、コンビニは別としてもイジュンと話していて、韓国っていう国に興味がわいてきた。大学の卒業旅行で韓国に行くのもありだな。

「もし、俺が韓国に行ったら、通訳兼ガイドしてくれる?」
「もちろん! ソウルは東京に比べたら小さい街だけど、一応都市だからね。そこそこ見るところもあるよ。おいでよ。待ってる」

 うん、卒業旅行、考えてみよう。

「韓国ってどんなところ?」

 俺がそう訊くとイジュンはうーんと唸った。難しい質問をしただろうか? でも、少し考えてから「せっかちで騒がしいところ」と言った。

「韓国人はせっかちなんだよ。なんでもパリパリって言う。だからバスは乗客が乗ったらすぐに発車するし、降りるならバスが止まる前に降り口に行ってないと白い目でみられるし、完全に降りきってなくても走りだそうとするよ」
「え、危ないだろ、それ。怪我したらどうするんだ?」
「どうするんだろうね。まぁそしたら訴訟起こされるんじゃないかな? 韓国はすぐに訴訟起こすよ」

 イジュンの言葉を聞いて俺はびっくりした。そんなに簡単に訴訟を起こすなんて日本では考えられない。

「それに、車が走っていればクラクションをバンバン鳴らしてる」
「え? なんで?」
「せっかちだからだよ。自分だけは先に行こうとするの。だからクラクションを鳴らしまくる。そこへ韓国人の大きな声だから、通りは煩いよ。通りに面した部屋には住まない方がいい」

 そう言えば、日本にいてクラクションなんて聞かないなと思い出す。そうだよ、車にはクラクションっていうものがあった。それに日本人は外では煩くしない。人に迷惑をかけてしまうから。そう聞くと日本と韓国は真逆なのかもしれない。

「でも、市場とかは面白いし、人情もある。最近は薄れてきてるけど、それでも人情はあるって言えるかな。でも、日本に来て、日本人の方が人情あるかなって思ったからな。どうなんだろう」
「兵役はどうなの?」
「家族のこととか国のことを考える時間にはなったよ」
「でも、厳しいんだろう?」
「そうだね、先輩がとにかく厳しい。でも、昔はもっと厳しかったって聞く。携帯も昔は禁止だったけど、今は決められた時間内なら使える。食事もマシになったって聞いたな。昔は士気がだだ下がりのひどい食事だったって言うけど。兵役期間も陸軍は1年半って短くなったし」
「そうなんだ? なんで?」
「親が煩いからじゃないかな?」

 いわゆるクレーマーだろうか。日本でも最近は学校に対してクレームをつける保護者が増えて、学校側はピリピリしているって聞くもんな。韓国はそれが軍隊にまでいってるんだな。

「でも、スマホが使えるのはありがたいよ。外と気軽に連絡取れるから。昔は簡単に連絡取れなくて、兵役中に彼女と別れたりとかあったっていうからね」
「イジュンはどうだったの?」
「俺は軍隊に入る前に別れた。軍隊に行くからって」
「え? 待っててくれなかったの?」
「待っててくれなかったね」

 軍隊に行くからって簡単に別れるというのが俺には信じられなかった。確かに軍隊に入ったら簡単には会えなくなったりするんだろうけど、連絡が取れるなら1年半ぐらい待てなかったのだろうか。そんなに簡単に別れられるっていうことは、相手はイジュンのことを本気で好きだったわけじゃなかったんだな。なんだか、ちょっとイジュンが可哀想に思えた。

「待っててくれなかったのは辛かったね」
「まぁ、大学生の恋愛なんてそんなものなのかなって思ったよ。俺も待っててくれとは言えなかったし。本気で好きだったら言えたのかもしれないけど。恋愛って今までまともにしたことない。大学入るまでは大学進学に向けて勉強三昧だったし、大学時代も勉強してたし。大学卒業したら兵役があったから。誰かを好きになる余裕はなかったよ。明日海は? 優しいから彼女とかいるんだろう?」
「今はいない。っていうか俺モテないし」

 俺がそう言うとイジュンはびっくりしたようだ。

「なんで? そんなに綺麗な顔してて」
「綺麗言うな。なんか、自分より綺麗なのがイヤって言われたことがある」
「あー、そうきたか。それは仕方ないよね」
「なにが仕方ないだよ。母さんに似たからってこんな女顔に生まれてさ、不本意だよ」

 そう。そんなんだから今までまともに恋愛をしたことがない。そんなところはイジュンと似ているかもしれないと俺は思った。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、50回まで送信できます

送信中です送信しました!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA