樹くんと付き合うようになってから僕はオメガだったら良かったのに、と思うようになった。
オメガは三ヶ月に一回ヒートがあるから大変だ。番がいれば、番以外を誘惑することはなくなるので襲われたりといった心配はない。それでもヒートはある。
ヒートの間はセックスのことしか考えられなくなる、という。当然仕事は行かれない。
正直、大変だと思う。それに比べたらベータは楽だ。ヒートなんてないから行動が制限されることはない。
でも、樹くんの子供を身ごもることができるのは男のばあはオメガだけだ。ベータにはどうやってもできないことなのだ。
樹くんと付き合い始めたときは、こんなに好きになるなんて予想もしていなかった。
でも、付き合ってから樹くんの優しさに触れるようになってから、どんどん好きになった。
そうしたら欲が出てきた。ずっと一緒にいたい。そう思うようになった。いつでも身を引ける心づもりはしている。でもそのときにオメガだったら、って思うようになったのだ。
オメガなら一緒にいられるのに。
オメガなら樹くんの子供を産むことができるのに。
そう考えるようになった。
樹くんに愛しているよ、と言われるたびにその思いは強くなる。
ベータの僕をも愛してくれる樹くんに、最初はごめん、と謝るしかできなかった。
ずっと一緒にいよう、と言われるたびにオメガなら良かったのに、と思うようになった。オメガなら……。
そこで、ふと思ったのが後天性オメガになることだ。
基本的に性別が変わることはないが、ごく稀に性別が変わることがある。母が狙ったのはこれだ。オメガ家系のベータだから他の人よりオメガになる確率は高いのだ。あのときは心が追いついていかず、オメガになることはできなかった。でも今なら? 今、もう一つの方法でオメガになることはできないだろうか。
オメガになる方法は二種類ある。ひとつめはホルモン剤の投与。僕がずっと受けた方法だ。そして、もうひとつの方法はヒートの誘発剤を飲み、アルファの精子を体の奥で受け止め、項を噛んで貰うこと。そう疑似ではあるけど、アルファとオメガのセックスだ。そして、そのときにオメガになりたいと強く思いながらそうすることでごく稀に後天性オメガになることがある、と言われている。
確率としてはホルモン剤の投与の方が可能性は高いという。でも、当時はオメガになりたいとは思っていなかった。だけど今は気持ちが追いついている。だから当時よりは確率はあがっているんじゃないか。そう思うようになってきた。
一人で生きていくのなら。いや、樹くんと出会っていなければオメガになりたいなんて思わない。でも、樹くんと出会ったから。樹くんとずっと一緒にいたいから。だから考えるようになった。
でも、樹くんに言うには勇気が必要だった。樹くんは僕がベータのままでもずっと一緒にいようといってくれている。
だけど、そのうち周りが樹くんの子供を願うようになる。そうしたときにベータだと別れさせられることはないだろうか? でもオメガならゼロではないにしろ確率は低いだろう。だって樹くんの子供を産めるんだから。
だからその為に試してみたい。一度失敗しているからセックスの方を。もちろん、樹くんの同意がなければ無理だけど。でも、話してみようと思った。
樹くんに話そうと思ってもどう言い出せばいいのかわからなかった。
そうやって悶々とした時間をどれくらい過ごしたのだろう。ある時、樹くんの家で映画を観ているときに樹くんが言った。
「何か話したいことがあるんじゃない?」
突然だったから、ドキっとした。
「最近、何か言いたそうな顔してる。どうしたの?」
僕がごちゃごちゃ考えていることなんて、やっぱり樹くんにはお見通しなんだ。
「なんでもいいら言ってごらん。何か言いたいんだろう、とはわかるけど、何が言いたいかまではわからないから、言って。どんなことでもいいから」
「……ほんとになんでもいいの? 呆れたり怒ったりしない?」
「俺は今まで優斗に対して呆れたことも怒ったこともないよ」
確かに今まではない。でも、これが初になるかもしれない。だけど、自分から言い出せない僕では今が言うチャンスだろう。
「僕、オメガになりたい」
「え?」
「樹くんと付き合うまでは、出来損ないでもベータでいいと思ってた。でも、今はオメガになりたい」
「理由訊いてもいい?」
「樹くんとずっと一緒にいたいから」
「俺、ずっと一緒にいようって言ったよね? 優斗がベータでもオメガでも変わらないよ。ずっと一緒にいたいって思ってる」
「でもベータの僕では樹くんの子供は産めないんだ。でも、オメガなら産める」
「なんで子供に拘るの?」
「樹くんはKコーポレーションの跡取りでしょう。そうしたら、いつか子供を望まれる。でも、僕じゃ産めない」
「子供を産めないベータだとダメになるって?」
「樹くんは言わないにしても、樹くんのご両親や周りの人は違うでしょう?」
「でも、ホルモン剤は打ったことあるんだよね?」
「うん。でもオメガにはなれなかった」
「じゃあ、セックスする方を試したい?」
樹くんの口からセックスと聞いてドキドキしてしまった。そのものずばりで。いや、でも他に言い方ないんだけれど。
僕と樹くんは、セックスの経験はある。そんなにしょっちゅうではないけれど。男同士のセックスでは、どうしても受けの僕の方の負担が大きいから、樹くんは僕の体を第一にしてくれている。
「でも、やったからって絶対にオメガになれるわけじゃないよ?」
「わかってる。ダメなら……そのときは諦めるよ」
そう。そのときは別れることを受け入れなきゃいけない。だって、ベータの僕が樹くんを独り占めしていていいわけがないから。
「わかった。試してみよう。でも、ひとつだけ条件がある」
「条件?」
条件ってなんだろう。樹くんがそんなことを言うのは珍しいので、身構えてしまう。
「そう。条件。って言っても難しいことじゃないよ。オメガにならなくても俺のそばにいて。俺は優斗のこと手放せない」
「樹くん……」
ここで頷かなきゃダメだとわかっている。でも、一瞬躊躇してしまった。
「優斗のことだから、俺のためにっていなくなろうとするだろ? でも、それって全然俺のためにならないから。優斗がいなくなったら、俺は探すし、絶対に見つけ出す」
樹くんにこんなふうに強く言われたのは初めてだった。僕がいなくなったら、探してくれるの?
「その条件つきでなら、試してみよう。優斗はオメガ家系だから、確かに可能性としたら高いね。でも絶対なれるわけじゃないからね」
「ホルモン剤でオメガにならなかったから、わかってるよ」
「じゃあ誘発剤用意しておくよ」
条件付きにはなってしまったけれど、樹くんに納得して貰えた。きちんと条件をのむかと言われたら、正直なんとも言えない。だって、子供も産めない出来損ないのベータが樹くんのそばにいていいわけがないじゃないか。
だけど、試してみるためには、条件をのんだ振りをするしかない。そんなことしたくないけれど、樹くんのためだから。きっと、そのときになったら樹くんもわかってくれるだろう。なんだか自分がずるい人間だと思うけれど、これは言えない。
樹くんから、誘発剤を用意できたと言われたのは、それから一週間たってからだった。ちょうど週末に重なったので、この週末に試したいと思った。それは樹くんも同じようだった。
お昼ご飯をを外で食べ、樹くんの家に帰る。そして、錠剤を手渡された。誘発剤だ。震える手でそれを受け取り、飲んだ。
薬を飲んですぐ効くわけではないので、その間に樹くんと話をする。
「薬は五錠あるから五回は試せる」
「うん」
「ベータであること、そんなに悩んでたんだ?」
「うん」
「何回も言ってるけど、俺は優斗がベータでも手放す気はないから。それだけはわかってて」
樹くんはそう言って僕をギュッと抱きしめてくれた。
樹くんの腕の中はとても温かい。ギュッとされると、このままずっと抱きしめられていたいと思ってしまう。ずっとこのまま。なんて僕なんかが望んじゃいけないけれど。
「抱くよ」
そう言われて、僕はこくんと頷いた。
樹くんから優しいキスが降ってくる。樹くんの愛情を感じられるこのキスが僕は好きだ。
「んっ……ふぅ……んぅ」
樹くんの舌がゆっくり僕の咥内に入ってきて、僕の舌と絡まる。
「はっ……ぁん」
二人の絡まる舌がくちゅ、くちゅと音を立て、じゅるっとよだれが溢れてくる。
キスだけで息があがり、頭は白くなり何も考えられなくなってくる。
じわじわと何かが体の中を駆け抜け、火照っている体はさらに火照りをます。
そして、キスが唇から首筋を辿り、そして耳元へといく。
手は僕の性感帯である胸の尖りを捏ねたり、ぎゅっとつねったりする。
「ん……あぁ……」
軽く引っ掻くようにされると、声がとまらなくなる。
「あぁ……んぅ」
樹くんの舌は僕の耳をぺろりと舐め上げたかと思うと、ぱくりと口に含み、あむあむと噛むようにする。その音が耳にダイレクトに伝わり、さらなる快感に全身は持っていかれ、背を仰け反らせる。
「気持ちいいね」
耳元で囁くように言われると、甘い声をあげるしかない。
「あン……ふっ、ん」
そして耳を食まれたまま、もう片方の手も僕の乳首に到達し、軽く摘む。胸が性感帯の僕は、耳攻めと共に乳首まで弄られたら、どんどんと息はあがる。
「んぅ……あぁ。はぁ……ち、くび、ダメぇ」
「なんで? 気持ちいいんでしょう?」
「はぁ……んぅん」
僕が喘いでいる間に、樹くんの手は乳首を捏ねたり、引っ掻いたりと自由に動いている。
「あぁ。ん……」
樹くんの手の動きに翻弄されて、僕は声を止めることができない。
そして、耳を攻めていた樹くんの唇が乳首へと移動し、片方の乳首は口に含まれ、もう片方の乳首は手で攻められ始めた。両乳首を弄られるのはなかなかキツい。
「や……もう乳首、いや」
「嫌じゃないでしょう。乳首立ってる」
そんなことを耳元で囁かれると、恥ずかしくて余計に感じてしまう。
しばらくそうして、乳首を弄られて快感をなんとか散らそうとする。
「気持ちいいでしょ。気持ちいいって言ったら、もっと気持ち良くしてあげる」
もうこれ以上、乳首で感じたくなくて首を振る。
「気持ち良くないの? 嫌ならやめるよ?」
こういうときの樹くんは意地悪だ。いやだと言っても、それが本当に嫌がっているわけではないことをわかっているのだ。わかっていてそういうのだ。
「ほら、言って? やめた方がいい?」
「やぁ。や、めない……で」
こんなこと言うのは恥ずかしいけど、火のついた身体をなんとかしたい。
そして樹くんの手は僕の脚をいやらしく撫で、ペニスにと触れてくる。胸に与えられる刺激とペニスへの直接的な刺激によって僕は高みへとあがっていく。もうこれだけで僕はイきそうになる。
「気持ちいい?」
「き、もち……いい」
「じゃあもっと気持ち良くなろうか」
裏筋をツツツとなぞられるだけで、もうイきそうになった。竿を擦られたときには、本当にイきそうで涙が出てきた。
「もう、イきそう?」
樹くんに訊かれて、うん、と頷く。樹くんは平気なんだろうか、と思わずそっと触ってみるとパンパンになっていた。こんなになってるのに、涼しい顔して僕を攻めているなんて。
僕がそんなことを思っていると、樹くんに注意された。
「そんなに余裕あるの?」
余裕なんてない。本当にもうイきそうなんだ。だから思い切り首を振る。そうすると樹くんの手が鈴口を刺激してくる。そこを刺激されたらもうダメだ。
「一回イッていいよ」
その言葉に僕は素直に精を放った。とは言ってもそれで終わるわけではない。だって今回の目的は疑似ではあるもののαとΩの番契約時のセックスだ。
体を裏返され、うつ伏せになってから、腰を高く上げた格好になる。これだと樹くんの目の前にお尻がある状態なので恥ずかしい。
お尻に樹くんの指がつぷっと入ってくる。初めは一本から。そしてしばらくしてから二本目の指も入ってくる。入口付近を丹念にほぐすようにし、だいぶほぐれたところで指がピストン運動を始める。
「あっ……んぅ……はぁ」
後ろでの快感を拾い始めた頃、樹くんは指を抜き、樹くん自身をあててくる。入ってくる。ゆっくりと、でも僕の前立腺にしっかり当ててきているので、それだけで感じてしまう。
「ぅ……んっ。あぁ」
そして、ゆっくりと最奥まで入ってくる。
今日は、後天性Ωになるための行為だからゴムはつけていない。最奥に精を放って貰う必要があるからだ。
「気持ちいい?」
「ん……ぅん」
「動くからね」
僕が頷くと樹くんはゆるゆると動き出す。
「あぁ……。樹くん、か、んで。……噛んで」
「もうちょっと待って」
そう言うと、樹くんは腰の動きを早める。パンッパンと肌のぶつかる音が続き、それと同時に呼吸も荒くなっているようだ。
「優斗っ。噛むよ。いい?」
「うんっ。かん、で」
僕がそう言うと、樹くんはがぶりと僕の項を噛み、犬歯がつぷりと入ってきた。
「あぁぁぁぁぁぁぁ」
そして、噛みついたのが合図のように樹くんの腰の動きは更に激しくなり、僕は話すことができなくなり、声は嬌声にしかならなくなった。
部屋の中は僕と樹くんの荒い呼吸と肌のぶつかる音しか聞こえなくなる。
「はぁ、あぁ……んっ。い、イク。イッちゃう」
「うん。イッていいよ。俺もイクッ」
そう言って僕は二度目の精を放ち、樹くんは僕の最奥に精を放った。
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