エピローグ

 律くんと心を通わせてから3週間。

 その間、律くんの元に彼氏? からの連絡は一度もない。

 でも、持って出た手荷物だけではさすがに足りないし、別れるのなら荷物は全部出してしまいたいと彼氏が仕事に行っている間に有給を使って取りに行っていた。

 ほんとはきちんと彼との仲を終わらせてから付き合いたいけれど、それは今のところできないでいる。

 今、律くんはうちから仕事に行っている。最初は彼と会うんじゃないかと気にしていたけれど、きちんと別れなければというのがあり、逆にちょうどいいということで気にせずにうちから通っている。

 部屋は同じフロアでご近所。そうなったら会いそうなものだけど、この3週間一度も顔をあわせていない。

 考えてみれば俺が律くんのことを知ったのだって律くんがこのマンションに来て2年以上経ってからだ。そんなものなのかもしれない。

 今日は週末ということもあり、思い切り料理ができる。

 今は繁忙期で仕事が忙しくて疲れている律くんに留守番を任せて俺は近所のスーパーへと出かけた。

 合いびき肉が安かったので今夜はハンバーグにしよう。俺も律くんもハンバーグは好きなのでちょうどいい。

 気分良く帰ってきてマンションエントランスをくぐり、エレベーターの前に行ったところで彼を見かけた。

 相手も俺に気づき、「こんばんは」とペコリと頭を下げてくる。俺も頭を下げたところで律くんの話しを振る。


「律くん、連絡を待ってますよ」

 俺がそう言うと彼は小さく、悲しげに笑った。


「俺からはもう連絡はしないって決めたんです。俺がいないときに荷物を取りに来たみたいですけど、あえてなにも言ってません。俺に縛り付けてたらいけないから。俺と別れた方が律も幸せになれるから」
「じゃあ俺が貰ってもいいですか?」
「俺が言うことじゃないけど、幸せにしてやってください」

 そう言うと彼は俺に頭を下げた。


「幸せにします」

 俺がそう言ったところでエレベーターがやってきた。

 エレベーターの中ではお互い無言で、同じ階で降りる。

 先に彼が家に入り、俺はその前を通りすぎて一番奥へ。

 俺がいうことじゃないけれど、あの彼も律くんのことをほんとに好きなのだな、と思う。

 自分の気持ちよりも律くんの幸せを願って、あえて連絡もしていない。

 それが彼なりの優しさだ。

 そして、2人は、あのわずかな荷物とともに律くんが放り出されたあの日に終わっていたのだとわかる。

 律くんは俺を好きだと言ってくれた。それを疑ったことはない。でも、彼に情は残していてきちんと終わらせるためにも連絡がこないかと待っていた。

 その待っている間に律くんの方から一度連絡をしたことも知っている。

 それでも、メッセージはフォローを外されていて、電話をかけても出て貰えないと言っていた。

 彼はまだ律くんのことが好きだ。そう断言できる。それでも、そうすることで2人の関係は終わったと律くんに知らせるために心を鬼にして連絡をスルーしているのだろう。それはとても悲しい。

 この3週間、律くんは家にいるときにボーっとしていることがある。

 彼と一切連絡が取れないことで律くんも2人の関係が終わったのだとわかっている。それでも多分なにか言いたかったことがあるのだろう。それか、こういうなし崩し的なのは嫌なのかもしれない。

それでも、家に直接行けば会える。けれどそれはしていない。そんなことはしたくないのだろう。
「ただいま」

俺がそう言ってリビングのドアを開けると律くんは、ソファーで陽を浴びてうたた寝をしていた。

当初はあまりくつろげていないようなところがあったけれど、この1週間で張り詰めていた神経も少し緩んだみたいだ。

 それはまるで手負いの猫みたいだけど、少しずつ傷も癒えていっているんだろう。それがわかって少しホッとしている。

 彼が寝ている間にパスタでも湯がいて、夕食の準備もしてしまおう。

 そう思って買ってきた食材を冷蔵庫にしまっていると律くんは目を覚ました。


「あ。おかえりなさい」
「ただいま」
「ごめんなさい。俺いつの間にか寝ちゃってた」
「仕事で疲れてるんだよ。お昼ご飯、パスタでいい?」
「あ、はい」
「じゃあできるまで少し待ってて。あ、夜はハンバーグだからね」
「やった! って、なにからなにまでごめんなさい」
「なんで謝るの? 俺が遅いときは夕食作ってくれたりしてるじゃない。だからお互い様だよ」
「ありがとうございます」

 まだ少し俺に対して気を使っているところもあるけれど、それは時間が解決してくれるだろう。

 だから今はこれでいい。

 少しずつ俺たちのペースで進んでいけばいい。

 焦ることはない。

 まずは完全飼い猫になることを目指して昼食を作ろう。そう思ってパスタを鍋に入れた。

 END

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